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インタビュー

竹村一哲『村雨/Murasame』福居良に育まれし鬼才ドラマーが滾るようなジャズを飛び散らせた初リーダー作

竹村一哲『村雨/Murasame』福居良に育まれし鬼才ドラマーが滾るようなジャズを飛び散らせた初リーダー作

加速度的な勢いで活動を続けるジャズ・レーベル、Days of Delightからまたしても力作が登場する。渡辺貞夫、峰厚介、板橋文夫、藤井郷子ら錚々たるミュージシャンから大きな信頼を得る北海道・札幌出身のトップ・ドラマー、竹村一哲のリーダー作『村雨/Murasame』だ。

共演は井上銘(ギター)、魚返明未(ピアノ)、三嶋大輝(ベース)という、同年代の才人たち。2年ほど前から続くレギュラー・カルテットが、ついにレコーディング・スタジオに足を踏み入れた形だ。録音はフィル・ラモーンの薫陶を受け、マイケル・ジャクソン、マライア・キャリー、SUGIZO、三浦大知、SKY-HIなどの音録りに関わってきたニラジ・カジャンチが担当。鬼才・竹村一哲が『村雨/Murasame』にこめたものとは? さっそく彼の話に耳を傾けたい。

竹村一哲 『村雨/Murasame』 Days of Delight(2021)

ギターとピアノのぶつかり合いを煽りつつ支えるリズム隊

――竹村さんはもちろん、井上銘さん、魚返明未さん、三嶋大輝さんの魅力もふんだんにつめこまれた力作が『村雨/Murasame』だと感じました。各メンバーとの出会いについて教えていただけますか?

「銘くんとは、3~4年前にジャズ・クラブのセッションで知り合ってからのつきあいです。ピアノの魚返くんとは、トランペッターの中村恵介さんのバンドで一緒になったのが初めて。そのバンドは今も継続しています。

一番つきあいが長いのがベースの三嶋くんですが、共演機会はほかの2人より少ないかもしれません。彼はずっとピアニストの荒武裕一朗さんと共演していて、(荒武さんが)そこに僕を呼んでくれた際に、一緒に演奏したのが最初でした。最初の時からとてもうまくいったので、彼と新たに何かやりたい、彼と組もうという気持ちがずっとあって。〈じゃあフロントを誰にしようか〉と考えはじめたら、銘くんと魚返くんの顔がすぐに浮かんだんです」

――ドラマーとベーシストがしっくりくれば、それだけで演奏の内容が保証されたも同然です。

「そうですね。三嶋くんは、なんかすごい〈ベースしてくれる〉んですよ。なんていうか、常に支えてくれてる感というか、安心感というか、そういうのを強く感じます。すごくどっしりしていて。そういうところがいいなあと思います。もちろん僕が彼の人柄をすごく好きになったというのもあるんですけどね」

――安定とうねりを兼ね備えたリズムのうえで、ギターとかピアノが自由に遊んでいる雰囲気です。

「銘くんと魚返くんは、もう放っておいても大丈夫っていうか、好きにやってくれるだろうし、絶対にその方が面白い。なので、僕と三嶋くんで2人を盛り上げつつ、煽りつつ、支えるっていう感じですね。もちろん一方では、冷静に、俯瞰的に見ることも忘れちゃいけないけど」

――井上さんがすさまじくはじけているのも印象に残りました。個人的にはハード・ロックみたいなパッションも感じました。

「先ほどお話しした、僕が最初に銘くんと共演したセッションが、一応ジャズ系ではあったんだけど、エレキ・ベースの入ったトリオ編成だったんですよね。それもあって、僕は彼に対して、いわゆる〈ジャズ〉っていうイメージより、ギター小僧的な印象を最初から持っていて。もちろんすごいテクニックを持っているから、ジャズもちゃんとできるんだけど、それだけでなくロックのフィーリングも色濃く併せ持っている。素晴らしいギタリストです」

――この激しいプレイは竹村さんが指示したわけじゃなくて、ごく自然に出たものなんでしょうか?

「そうです。僕とやる時は、自然とそういうフィーリングになるんじゃないかな」

――そして魚返さんはアコースティック・ピアノに専念している。鋼のように強靭な電気ギターと清廉な生ピアノの、音のぶつかり合いが快感です。

「とにかく彼は演奏中、もうあの感じなので……」

――とりつかれたような……。

「別に相手が誰だろうが(関係ない)っていう感じだと思いますよ。ものすごく美しい演奏もするし」

 

1年半の熟成期間でいっそう〈仲良くなった〉4人のサウンド

――2019年のグループ結成からずいぶんレパートリーが増えたのではと思いますが、この7曲を選んだ基準は?

「基本的には普段のライブでよくやっている、もうズバッとできそうな曲というか、そんなに作りこまなくても成立しそうな曲が中心です。その方がみんなもやりなれているし、楽しいだろうと思って。

もちろん、プロデューサーの平野(暁臣、Days of Delightのファウンダー&プロデューサー)さんから早い段階でレコーディングのお話をいただいていたので、それに向けて新曲も作りましたが」

『村雨/Murasame』トレイラー映像
 

――平野さんは2019年にこのメンバーのライブを観てすごいと思い、レコーディングのオファーを出したとうかがっています(詳しくは3ページ目を参照)。でも録音は今年なんですね。サウンドの熟成をじっくり待って、録音に踏み切ったのでしょうか。

「そうですね。その間約1年半あって、4人のサウンドがいっそう〈仲良くなった〉というか。もともと仲が悪かったってわけじゃないけど(笑)。ここまで来たらもう録音してもいいかな、曲も揃ったし、という感じでした。

基本的に僕はメンバーには何も言いません。実際細かい指示は一切出しませんでした。みんなが素晴らしい音楽力を持っているから。考えていたのは、スタジオ・レコーディングであってもライブと同じようにやろうということだけ。ライブだったら1曲10分も当たり前だから、そのつもりでやろうと」

――6曲目“Spiral Dance”のフェード・アウトが、やけに印象的です。終わらないくらい盛り上がりすぎたのかと想像しているんですが。

「いや、実はもうちょっとで完奏するところだったんですよ。いい感じだったのに、魚返くんのヘッドフォンが外れてバンドが目のあたりで止まったんです。ワイド・ショーで密告者の目を隠す黒い線みたいに(笑)。その光景がモニター越しに目に入ったので、みんな可笑しくて演奏に集中できなくなってフェード・アウトという(笑)」

――1950年代のモダン・ジャズのレコード、たとえば『Sonny Rollins, Vol. 2』(1957年)のような、多少のほころびがあってもメンバーが乗りまくっているからリテイクせずにそのまま使っちゃう、みたいな感じの生々しさを感じました。

「実際そうでしたから。録りなおしても意味ないと思って。仮に何テイクか録ったとしても、このバンドならどれも良くなるだろうし、そうなるとあと(の選択)はそれぞれの好みになっちゃうから」

ソニー・ロリンズの1957年作『Sonny Rollins, Vol. 2』収録曲“Why Don’t I”

 

『村雨/Murasame』収録曲をめぐる裏話

――曲順はどのように考えたのですか?

「特にこだわりがあったわけではなくて、平野さんと相談しながら決めていきました。1曲目とラストの曲を最初に決めて、その間に曲を並べていく感じでしたね」

――1曲目は目の覚めるようなドラムのイントロダクションから始まります。ドラマーがイニシアティヴをとっているのが伝わってきます。ところで〈村雨〉という言葉、僕は不勉強で初めて知りました。

「僕もなんとなく知っていただけで、似たようなもんですよ。もともとかっこいい言葉だなと思っていたという、ただそれだけで(笑)。この曲はもともとタイトルがついていないまま、ずっとやっていたんです。今回アルバムに入れるにあたって〈村雨〉と名づけました」

『村雨/Murasame』表題曲
 

――3曲目の“A”はなぜ、この曲名になったのですか?

「“A”は10年くらい前、札幌時代に書いた曲です。その時につきあっていた彼女の名前から取りました。いや、つきあう前だったのかな? 口説こうと思って書いたとか、たしかそんな感じです。うわあ、これは恥ずかしい(笑)!」

――“RM”はファンク的でもあり、レッド・ツェッペリンが混じっている感じでもあり。

「最初はアフリカっぽい曲を書こうかと思っていたんですけど、書いているうちにそうならなくなっちゃった。〈じゃあ、こういう風にしてみようかな〉とあれこれ変えていくうちに、ああいう感じになりました。

曲名は筋トレ用語で、最大反復回数みたいな意味です。ちょっと面倒くさいリフがあるので、そこが筋トレに通ずる感じかなと。それに〈RM〉なら、(タイトルとしても)格好がつくかなと思って」

――ドラム演奏と筋トレの関係に思いを巡らせました。

「あ、それはちょっと違います。2つはまったく関係ないんですよね。むしろ演奏に必要のない筋肉がついちゃうから、(筋トレはドラム演奏にとって)無駄なことかもしれない。僕は筋トレをやってますけど、ただ好きだっていうだけで」

――竹村さんの好きな作曲家は?

「あー、難しいな。キース(・ジャレット)の曲も好きだし、(チャールズ・)ミンガスの曲もそうだし……。ミンガスについては、10代からライブをやってきたなかで、先輩のジャズ・ミュージシャンに教えてもらって、CDを買ったか貸してもらったかして、それで聴いたのが最初でした。ミンガスの曲はすごくかっこいいと思います。もっとも僕の曲作りにはまったく反映されてないですけど(笑)。

(ミンガスに限らず)他の作曲家から影響を受けることはあまりないですね。そもそも僕の曲作りって、わりと適当だし、単純なものを書いているだけだから。それをメンバーがそれぞれにアレンジして膨らませてくれる。そういうやり方がこのバンドには合っていると思ってます」

――ミンガスと言えば彼のアルバム『Changes Two』(75年)に入っている“Black Bats And Poles”(トランペッターのジャック・ウォラス作)を、『村雨/Murasame』でカヴァーしているのにも驚きました。

「『Changes One』『Changes Two』はすごく好きなアルバムでよく聴いていたので、どの曲かを取り上げたいなと思っていたんです。でもミンガスの曲って〈ミンガス臭〉が強すぎるでしょう? 聴いてくれた人に〈ミンガスっぽい〉って思われるのもナンだから、選曲には迷いました。

そんな中で “Black Bats And Poles”は、最初に聴いた時から単純にかっこいいと思った曲だったんです。でもあの曲をカヴァーしようとする人は、なぜかほとんどいません。みんなにやられるとレア度が下がるから、正直やめてほしいです(笑)」

チャールズ・ミンガスの75年作『Changes Two』収録曲“Black Bats And Poles”
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