田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。シル・ジョンソンの逝去が報じられました。2月5日、85歳で亡くなったとのことです。ご冥福をお祈りします」

天野龍太郎「お兄さんのジミーが亡くなった矢先のことでした。シル・ジョンソンといえば、ブルース/ソウルミュージックの大御所。1950年代から活躍していますが、後年“Different Strokes”(67年)“Is It Because I’m Black”(69年)などがウータン・クラン、パブリック・エネミー、カニエ・ウェストらにサンプリングされて再評価が進み、ヒップホップ世代からも愛されたアーティストでした。彼は、それを受けて90年代にシーンに復帰したんですよね」

田中「2014年に来日し、〈FUJI ROCK FESTIVAL〉に出演。彼のキャリアについてはBillboard JAPANの記事に短くまとめられているので、この機会にぜひそれを読みながら彼の音楽、そして彼の曲をサンプリングしたヒップホップを聴きたいところ。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Arlo Parks “Softly”
Song Of The Week

田中「第64回グラミー賞で最優秀新人賞と最優秀オルタナティブミュージックアルバム賞にノミネートされていることが話題のアーロ・パークス。彼女が、待望のニューシングル“Softly”をリリースしました。パークスいわく、『この曲は憧れについての曲。まだ必死に恋をしている恋愛の終わりかけの時期に感じる脆さについて歌っている。別れの前に気持ちを集中させ、すべてが輝いて見えた日々を回想する気持ちを歌った曲』とのこと」

天野「優しい曲ですよね。コーラス(サビ)の〈Break it to me softly〉というフレーズには、ロバータ・フラックの“Killing Me Softly With His Song”(73年)へのオマージュを感じました。揺れる心情を描きながら、〈レモンとジンジャービール、真ん中に泡(soap suds)〉という詩的な情景描写を挿し込むリリックがさすが。あと、歌の柔らかさが増したこと、オーガニックなブレイクビーツとエレクトロニックなサウンドを組み合わせたプロダクションが深化したことが感動的でした。プロデューサーは、2000年代からUKの重要なバンドを多数手がけている大物ポール・エプワース(Paul Epworth)。今年は、昨年の傑作『Collapsed In Sunbeams』に続く新作が聴けるのでしょうか?」

 

ROSALÍA “SAOKO”

田中「2曲目は〈PSN〉の常連、ロザリアの“SAOKO”です。2021年、ビリー・アイリッシュとの“Lo Vas A Olvidar”ウィークエンドとの“LA FAMA”などのコラボレーション曲を発表して注目を浴びたロザリア。待望のサードアルバム『MOTOMAMI』を3月18日(金)にリリースすることをアナウンスしました。正式なトラックリストは発表されていませんが、フランク・オーシャンの参加などが予想されており、すでに話題を呼んでいます」

天野「めちゃくちゃ楽しみ! 同作からシングルカットされたのが、この“SAOKO”。かなりエッジーなレゲトンで、ジャズ風のドラムをサンプリングしたイントロや不穏なベースラインと電子音にぎょっとしました。ロザリアのボーカルは、変なデジタルノイズがかけられていたり、ぶつ切れの編集が施されていたり、奇妙な響きを伴っています。また、この曲は、ウィシンとダディ・ヤンキーの2004年のレゲトンナンバー“Saoco”をサンプリングしているようです。ちなみに、〈saoko〉とはプエルトリコのスラングで〈アフリカンルーツ〉を意味するようですが、英語にはうまく訳せない言葉なのだとか」

田中「プロデュースしたのは、カニエ・ウェストとの仕事で知られるノア・ゴールドスタイン(Noah Goldstein)、フランク・オーシャンとも制作したマイケル・ウゾウル(Michael Uzowuru)、ウィークエンドやロジックやソランジュと協働しているサー・ディラン(Sir Dylan)と、錚々たる面々。気合が入っていますね」

 

Rolling Blackouts Coastal Fever “The Way It Shatters”

田中「豪メルボルン出身の5人組バンド、ローリング・ブラックアウツ・コースタル・フィーヴァー。彼らの新曲“The Way It Shatters”は、このバンドならではの疾走感にあふれたギターロックです。トリプルギターが牽引する重層的かつ艶やかなアンサンブルと引きの強いメロディーは、流石の一言。本当にRBCFは外さないですね。ここ数年のシーンにおける最良のバンドのひとつだと思います」

天野「亮太さんって、彼らのことが本当に好きですよね~。この連載では、〈Pop Style Nowがおすすめする2020年の洋楽アルバム20〉でRBCFのセカンドアルバム『Sideways To New Italy』を激推ししていましたし。さて。この“The Way It Shatters”が収録される新作『Endless Rooms』は、5月6日(金)にリリースされます。『部屋で一緒に曲を書き続ける、という自分たちがもっとも得意なことをした』と語るとおり、メンバーのルッソ兄弟が建てた郊外のレンガ造りのスタジオにバンドが集まって、同じ時間を過ごしながら作り上げたのだとか。『Endless Rooms』は初のセルフプロデュース作品ということもあり、彼らの魅力が凝縮されたアルバムになってそうですね」