
懐の深い質感と一体感を表現したベース
――前作ではサウンド面の変化として、テクスチュアルな音の広がりをたたえたギターのトーンが印象的でしたが、今作では太くて重い質感を増したベースラインに耳を奪われました。個人的に“How Cold Love Is”や“Bloomsday”を聴いてジャー・ウォブルを連想した場面もあったのですが。
コナー「まずベースについての質問されること自体滅多にないんですごく光栄で(笑)。
前作に関しては、あえて広陵とした殺風景なサウンドにしたかったんだ。ガリガリで骨と皮だけみたいな。それでベースにしても飾り気のないシンプルなジャズベースを使って、あえて孤高で禁欲的にしていた。
ただ、今回は思いっきりフルな感じで、ノリとしてはバンドがいざステージに登場!みたいな……今まさにそういった状況なわけで、またみんなで集まってステージで一緒に音を鳴らせる状況になっているわけだから。それで今回はより太い音の出るプレシジョンベースを使って、より懐の深い質感を出していったんだよね。その効果が活かされてると思うよ。
それとDIを通さずに直アンプに切り替えたりして。直アンプだと全体的な音が録れるから、いい感じの音の混ざり具合になって、それが今までにない感触を与えてくれている。
それと曲のテンポってところでも、昔だったらあえて明るいサウンドを持ってきて一つ一つの音がハッキリ主張するようにしていたであろうハイテンポの曲ほど、実はああいうフルオンな感じのサウンドが映える気がして。逆にテンポを落としてときにも、ビート的な役割を少し離れて、暖かみのある篭ったような音になってるのが、いい感じの雰囲気を醸し出してたり……要するに、今回は一体感みたいなものを出したかったんだ。『A Hero’s Death』のときは、いちいち突っかかっていくような、ベースでどこまで実験できるのか試してみたかったんだけど、今回は完全に曲に同化して溶け込んでいるような雰囲気にしたかったんだ。
ちなみにジャー・ウォブルのことは知らない(笑)」
プライマル・スクリーム、デス・イン・ヴェガス、ダンスミュージック……『Skinty Fia』のリファレンス
――ギターのカーリーは今作のリファレンスとしてプライマル・スクリームの『XTRMNTR』(2000年)と同作のプロデュースを務めたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズを挙げていましたが、お2人の場合、何か具体的に挙げることができるものはありますか?
トム「そうだね、今回のアルバムを作る上で『XTRMNTR』の存在はデカかったし、間違いなく影響を受けてるよ。あとカルロスがデス・イン・ヴェガスにめっちゃハマってて、『The Contino Sessions』(99年)とかは相当聴きまくってたから、それにもすごく影響を受けている。
個人的にはダンスミュージックにハマってて、90年代のドラムンベースとかレイヴミュージックを聴きまくってた。その頃はちょうどコロナのせいで外に出て行って踊るとか一切できなかったせいで、その孤独の反動としてそっち系の音に流れていったのかもね。とにかくゴールディーだのロニ・サイズだのを聴きまくっていた時期だった。自分の中では今回その2つが一番影響として大きいかなあ……少なくとも今回自分のドラムにものすごく影響してる。ああいったエレクトロニックミュージック直球のビートやドライブ感をあえてロックンロールの文脈の中に落とし込むっていうのが、すごく面白い試みだと思ったし。それは今回のアルバムの曲作りにも影響してるんじゃないかな」
――前作でも“Love Is The Main Thing”など、テクノやダンスミュージックっぽい音作り、ダブやクラウトロックの影響が感じられる楽曲がありましたが、とくにリズム/ビートのプロダクションについて今回ポイントを置いていたことがあれば教えてください。
トム「とりあえず家でずっとダンスミュージック的なドラムを叩いていたんだけど、ものすごく技が要るっていうか、今までやった中で一番テクニックを要することで。ただ、家に籠ってドラムを叩く時間は山ほどあったんでね(笑)。なんか妙にああいう感じのドラムに惹かれるんだよね。
君が今言ったように前作でも“Love Is The Main Thing”とかにすでにその兆候はあったし、“A Lucid Dream”にあるようなブレイクビーツ的なエレクトロニックミュージックの手法でどんどん引きずり込まれていくような感覚が快感なんだよね。今回はそれをもうちょっと全面的にアレンジに取り入れてみたかったというか、少なくともやってみるだけの価値があったんじゃないかと。今までにやったことのない試みではあるしね」
――ちなみに前作は、『Dogrel』のツアーバンの中で聴いていたリー・ヘイズルウッドやブロードキャスト、ビーチ・ボーイズの悲しい音楽や心にしみるハーモニーに触発されたと話していましたが、今回もそうした自分たちのイマジネーションを刺激したり、進むべき方向へと促してくれたサウンドトラックはありましたか?
コナー「みんなそれぞれ違うものを聴いていて、それが全部今回のアルバムの土台になっている。自分に関して言えば、ピクシーズとかをすごく聴いてたし。自分の今のベーススタイルとかも、キム・ディールのベースからの影響が大きかったり。あとはニルヴァーナとか、トムも言ったプライマル・スクリームの『XTRMNTR』とかロニ・サイズとか、そのへんが全部一緒くたになって今回の音に現れている感じだよ。あとシネイド・オコナーとかも」