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オルタナの勃興とドラマーとしての活躍、本気で取り組んでいた〈走り屋〉

――即興音楽への興味は、どこが入り口だったんでしょう。

「ジャムるのは、ギターを持っている友達同士でやりあってたよ。コードチェンジはない状態で、ペンタトニック(スケール)とかブルースフィーリングのあるフレーズとかを沢山使いまわして組み合わせて、コピペみたいな感じで弾いて。

その後、ヤマハの専門学校に行って、理論を教えてくれる先生もいたから、その人の授業でちゃんと勉強した」

――ジャズでライブをするようになるまでには、まだもう少しエピソードがある感じですか。

「まだある。

ヤマハ音楽院に入った時に、ロックシーンはヘヴィメタル/ハードロックが一気に終わっちゃったタイミングで。自分はニルヴァーナとかレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)も好きだったし、アリス・イン・チェインズとかサウンドガーデンとか好きなバンドはそのまま沢山残ってて、レディオヘッドも超好きだったんだけど、ヤマハ音楽院全体がオルタナティブロックブームになったんだよね。で、ギターが技術じゃなくてアイデア勝負になって、〈いかに今まで皆が聴いたことのない音を出すか〉って方向に向いていたから、〈それは俺じゃない方がいいな〉って思って。

だから、面白いギタリストを捕まえて、自分はドラムを叩いてたんだよ。俺はギター科だったけどドラムも結構上手かったからドラムでバンドを結成して、それで10年ぐらい、30歳ぐらいまで活動してたの。ラップボーカルとベースとツインギターとドラムで、ミクスチャー的な音楽性で、ゴリゴリしてる曲はそんなに多くなくて。それはLiquidFunkっていうバンドなんだけど、インディーズで2枚CDを出して、イベントで勝ち上がってZeppで演奏したこともある」

LiquidFunkの2009年作『FuturePlayer』収録曲“バンドサウンドとマイカフォン”

――ギターは全然弾いてなかったんですか?

「時々、ツアーやレコーディングとかサポートの仕事があれば弾いてた。それぐらいしかやってなかったかな。ドラムはジャズじゃないし、ポップスとかロックの流れでずっと続けてたって感じかな。

実は25、26歳までの間、車をチューンナップして峠で走るっていう走り屋も本気でやってたの、かなりガチで。けど、〈やめなきゃ〉と思ったタイミングがあって。修理でお世話になってた町工場がレースにも参加していて、〈シートが空いてるから、お前乗るか?〉って言われた時に、我に帰ったんだよね。〈いやいや、レーサーとして基礎的なトレーニングを積んだり教育を受けたわけじゃないし、こんな程度でプロのレーサーになって挫折するのは目に見えてるし、俺、何やってるんだろう〉って、やっとその時になって思って。

その点、ギターは専門学校まで出てるし、音楽の基礎的な素養もあるから、〈ちゃんとミュージシャンをやらなきゃ〉って思って、〈ギブソン・ジャズ・ギター・コンテスト〉に出たの。それが2004年。

20代は車にかけたエネルギーが多くて、ミュージシャンの皆がセッションに行ったり修行してた時間は全て奥多摩の峠に行ってたから、精神的には音楽は一旦休止状態だったんだよね。メタルに興奮していた時は熱中して練習していたけど、それが世間としては終わってしまったことで、自分もその影響で情熱的になれるものがなくなって、音楽に対して真剣に心が躍る状態になってなかったというか。それが、徐々に仕事として戻ってきて、そこからまたジャズで格好良いギタリストを発見して研究し始めて」

 

ビレリ・ラグレーン、フランク・ギャンバレとアラン・ホールズワース、スコット・ヘンダーソン……

――当時、ジャズギタリストとして、凄いと思ったギタリストはどんな感じでした?

「対バンで仲良くなった子がラッパーとしてメジャーデビューしたんだけど、トラックはジャズの方がいいってことで、それでジャズ系の仲間を集めてジプシースウィングみたいなものとかを研究してやってみたりしたの。そこで、ビレリ・ラグレーンにたどり着いて、掘り下げれば掘り下げるほどアルバムごとに(音楽性が)全く違うから、〈やべえ、なんでも弾けるのか、この人〉ってびっくりして。

ビレリ・ラグレーンのライブ動画

それ以前にも伏線はあって、中学2年の時に親父に〈お前、ギターをやるんだったらこれを聴け〉って渡されたのが、フランク・ギャンバレとアラン・ホールズワースのMVPのアルバムで。〈一生弾ける気がしない〉って思ったね。

MVP(マーク・バーニー・プロジェクト)の90年作『Truth In Shredding』収録曲“Humpty Dumpty”

あとはチック・コリア・エレクトリック・バンドのスコット・ヘンダーソンが好きで、今でも大好き。トライバル・テックとかね。

チック・コリア・エレクトリック・バンドの86年のライブ動画

トライバル・テックの95年のライブ動画。トライバル・テックはスコット・ヘンダーソンとベーシストのゲイリー・ウィリスが84年に結成したフュージョンバンド

以前、『ギター・マガジン』で〈パット・メセニーをどう思いますか?〉って50人ぐらいに訊くインタビュー企画があったんだけど、スコット・ヘンダーソンが〈メセニーが好きか嫌いか、yes or noで訊かれたら、答えはnoだ。なぜならば、ハッピーすぎるから。俺はもっとダークでエッジの効いたサウンドが好きなんだ〉って言ってて、〈わかる!〉って思ったな」

――わははは(笑)。私もトライバル・テックは好きでよく聴いていました。

「ガンズの悪さとか、メガデスの悪さとか、同じものをスコット・ヘンダーソンには感じてて、そういうのが俺は好きなんだなって思う。

ジャズは、ジャンル的にどうしてもハーモニーもリズムも複雑でロジカルになってしまうけど、自分にとってそれはあまり問題じゃない。聴き手としては全体のイメージで聴いているんだよね。弾けなきゃいけないんだけど、難しさは優先ではないんだよ」