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マーティとふたりで音を出せばどこへでもいけそう!

――さて、ここから新作『Song for the Sun』についてうかがいたいのですが、Days of Delightから作品を発表することになったきっかけは?

「Days of Delightの活動は、以前から興味を持って見ていたんですが、実際にこのレーベルのレコーディングに参加したのは山田玲くんのKejime Collectiveの『Counter Attack』(2022年)が初めてでした。

山田玲 Kejime Collectiveの2022年作『Counter Attack』収録曲“Counter Attack”

このとき、平野さんから〈次は翔太くんの名義でアルバムを作ろう!〉とお声掛けいただいたんです。ふたりで構想を練って行く中で、〈マーティとのデュオで行こう〉という話になって」

――パートナーのベーシスト、マーティ・ホロベックとはどのように出会ったのですか?

「シンガーソングライターのジェイク・シャーマンのライヴを青山の〈月見ル君想フ〉に石若駿くんと観に行ったとき(2019年)、〈紹介したい友達がいる〉と言われて紹介してもらいました。会った途端、人間味溢れる人柄や、オープンマインドな姿に一目惚れしました。

そのときはまだ彼のプレイを聴いたことがなかったんですが、彼が名古屋に来るタイミングで共演することができて。老舗の〈スターアイズ〉というライヴハウスで、スタンダードナンバーとオリジナルを織り交ぜてデュオで演奏したんです。そのときから互いに〈こういう曲もやりたい〉とビジョンが膨らんでいって、〈ふたりで音を出せば、どこへでもいけそう!〉という感覚を持つようになった。彼となら、今までとは違った景色が見られるかもしれないという気がして、これはもう絶対に続けたいなと。

以来、定期的にライヴを重ねていたんですが、とてもいいタイミングで彼とのレコーディングのチャンスをいただきました。ちょうどマーティとのアルバムを残したいと思っていたので、とても嬉しかったですね」

――ピアノの音もベースの音も厚みがあって、歯切れよく立ち上がっていますね。

「レコーディングは小さなプライベートスタジオで行いました。事前にリハーサルをしたときから、音の響きがすごくいいなと思っていたんです。空間のリバーブ、反響、ムードなどが、演奏にいい影響をプラスしてくれる感覚があって。

レコーディング自体もとてもスムーズに進んで、11時頃からゆっくり準備を始めて、午後の3時か4時には終わったんじゃないかな。文字どおりライヴみたいな感じでした」

『Song for the Sun』トレーラー

 

生きものが生きて動く姿にはストーリーがある

――宛て書きというか、マーティさんのベースを想定して曲作りを進めた感じでしょうか?

「もちろんそれもありますし、自分が今まで書き溜めていたオリジナル曲も演っています。

1曲目の“Changes”は、世の中がコロナ禍になって移りかわっていく中で、人と人が分断されていくことに違和感を感じてヤキモキした部分がずっとあったので、それを比喩的に表現したものです。

マーティと関連する曲は、たとえば“Song for the Sun”がそう。彼と奥さん(シンガーソングライターのermhoi)が住んでいる家で書きました。僕らはとても親密な関係だし、みんな家族だよね、みたいな感じで。

『Song for the Sun』収録曲“Song for the Sun”

“Kiki Feels Lonely”は自分の飼い猫をイメージして書いた曲です」

――ファーストアルバム『Awareness』(2018年)には“Ants Love Juice”や“Saga of Little Bear”という曲がありましたが、渡辺さんは動物から相当インスピレーションを受けているようですね。

「生きものが生きて動いている姿にはストーリーがあると思うんです。〈植物とか石にもストーリーがあるよ〉と言われたら、そうなのかもしれませんけど(笑)。

曲を書くときは、あとでどういうタイトルにしようかと考えるときもあるし、もともとタイトルを決めてから書くときもありますが、やっぱり動物はヒントにしやすいですね。曲を書いている途中で、〈この動物なら次はこういくだろう〉なんて想像することもありますし。しょっちゅう動物園に行ってるわけじゃないけど、〈アニマルプラネット〉はよく観ます。インスピレーションを得ることもありますよ」

渡辺翔太トリオの2018年のライブ動画。演奏しているのは2018年作『Awareness』収録曲“Saga of Little Bear”

――“Giant Armadillo’s Hide Out”という曲名もユニークですね。

「まだ曲名がついていないときに、ライヴハウスのマスターがアルマジロの絵を持ってきて見せてくれたんです。なぜか〈この曲は巨大アルマジロのイメージだ!〉と言って(笑)。

僕はこの曲に、隠れ家的なイメージも感じていたので、アルマジロという言葉を生かしつつ、隠れ家という言葉もちょっと付け加えて名づけました」

――この曲ではマーティさんのベースが縦横無尽なんですよ。オクターブ奏法のような感じで、ウッドベースでこれをやるのは指と指の間隔の大きさとか長さとか太さがないと無理な技じゃないかと思うんです。あのパートについては渡辺さんがご指定なさったんですか?

「いえ、何も言ってません。マーティがそのときのインスピレーションで弾いただけ。いつもあんな感じになるわけじゃないし、あんな風に弾いたのはこのレコーディングが初めてじゃないかな。そこがジャズの面白いところですよね」