元ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンに密着した初のドキュメンタリー映画「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」が大ヒット上映中だ。ポップミュージック史上最大の天才の一人と言っていいブライアン・ウィルソン。彼の軌跡を辿り、素顔を映し出した本作は、海外での公開時から話題になっていた。そんな充実作が上映されている今こそ、ブライアンの〈旅路〉についてより深く知りたいところ。そこで、この記事では、〈ブライアン・ウィルソンの旅路を知るための5作〉を紹介したいと思う。映画のサウンドトラックと併せて、この5作でブライアンの才能を堪能してほしい。 *Mikiki編集部

映画「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」予告編

 

The Beach Boys『Pet Sounds』(66年)

THE BEACH BOYS 『Pet Sounds』 Capitol(1966)

数々のヒット曲を飛ばしていたものの、録音当時はまだ20代前半だったブライアン・ウィルソンが、ハル・ブレインをはじめとする腕利きのスタジオミュージシャンたちを率いて作り上げた大名盤(ブライアン以外のビーチ・ボーイズのメンバーは、ほぼボーカルとコーラスでの参加)。アルバムは、幸せに満ち溢れたカップルの“Wouldn’t It Be Nice”から始まり、愛を失ってしまった若者の“Caroline No”で終わる。途中、インスト曲を挟みながら36分程度で描かれるこの〈喪失感〉の切なさと美しさは、誕生から50年以上経った今でも色褪せることがない。映画「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」でも本作にまつわるエピソードが登場するが、白眉はドン・ウォズによって抜き取られた“God Only Knows”のボーカルとコーラスのみが流れる場面。愛する人(僕は愛犬)のことを想い、胸がしめつけられて涙があふれる。これぞ音楽(と映画)のマジックとも言うべき名シーンだ。

『Pet Sounds』収録曲“God Only Knows”

 

The Beach Boys『Sounds Of Summer: The Very Best Of The Beach Boys』(2022年)

THE BEACH BOYS 『Sounds Of Summer: The Very Best Of The Beach Boys (Remastered)』 Capitol/ユニバーサル(2022)

長いキャリアのおかげで、数多くのベスト盤がリリースされているビーチ・ボーイズ。なかでも、ビーチ・ボーイズがファーストアルバム『Surfin’ Safari』をリリースしてから60周年記念ということで今年発表されたばかりの本作は、全世界で450万枚を売り上げている決定版にリマスターを施した新装盤で、3枚組のデラックス仕様には全80曲が収められている。“Surfer Girl”“Don’t Worry Baby”“I Get Around”“California Girls”“Good Vibrations”“Kokomo”といったヒット曲だけでなく、『Pet Sounds』以降の“Friends”“The Night Was So Young”“Getcha Back”などもきちんと押さえられているので、ブライアンの尽きない才能やバンドの軌跡を辿るには最適な作品。また、各メンバーによる渾身の名曲としてデニス・ウィルソン作“Forever”やブルース・ジョンストン作“Disney Girls (1957)”、そして「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」の表題曲でカール・ウィルソン作“Long Promised Road”なども並んでいるので、鑑賞後のお供にぜひ。

『Sounds Of Summer: The Very Best Of The Beach Boys (Remastered)』収録曲“Good Vibrations”

 

Brian Wilson『Live At The Roxy Theatre』(2000年)

BRIAN WILSON 『Live At The Roxy Theatre』 Brimel/Oglio(2000)

90年代後半より、ソロ名義でコンサートツアーを開催するまでになったブライアン。2000年に行なわれたライブの模様を収めた本作は、ジェフリー・フォスケットやワンダーミンツのメンバーなどで構成されたバックバンド(ジョージ・マーティンいわく〈世界最強のバックバンド〉)の演奏とともに、98年に逝去した弟・カールへ捧げた“Lay Down Burden”や隠れた人気曲“This Isn’t Love”(曲名がブライアンらしい)、一世一代の名曲“Love And Mercy”といったソロ曲を歌っている。また、ビーチ・ボーイズ時代のナンバー(“The Little Girl I Once Knew”や“’Til I Die”など驚きの選曲もあり)や、ベアネイキッド・レディースの“Brian Wilson”やブライアン生涯の一曲であるロネッツの“Be My Baby”のカバーも披露。いずれも、60年代の歌声はもう出ないものの、なんとか楽曲を届けようと懸命に歌い続けるブライアンの姿が感動的だ。

『Live At The Roxy Theatre』収録曲“Brian Wilson”