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コラム

ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)の低評価時代を強力なアーカイブ『Sail On Sailor – 1972』で追体験する

©Capitol Records Archives

強力なアーカイヴで追体験する、1972年のビーチ・ボーイズ

 70年代に入ってブラザー/リプリーズに移籍したビーチ・ボーイズ。そのアーカイヴ第1弾として、我が国でも支持者の多い『Sunflower』(70年)と『Surfs Up』(71年)をコンパイルした昨年の『Feel Flows: The Sunflower & Surf’s Up Sessions 1969-1971』は、潤沢すぎるレア音源追加の効果などもあって、再評価を強力に促す内容になっていた。それを受け取って以来、次はアレとアレがくるのか……と頭の片隅でちらついていたアイテムがようやく到着。その2枚とは『Carl And The Passions “So Tough”』(72年)と『Holland』(73年)のこと。気になった理由は、これらが従来的に地味な扱いを受けがちな作品であったからで、セットにしたところで何か良い相乗効果を生むのだろうか?なんて不安が拭えなかった。そしてこの『Sail On Sailor – 1972』を受け取ったいま、あのときの自分を恥じ入るばかりだ。

THE BEACH BOYS 『Sail On Sailor – 1972』 UMe/ユニバーサル(2022)

 考えてみれば、ひとつのパッケージにする確固たる必然性があるではないか。まずどちらも〈1972年のビーチ・ボーイズ〉をドキュメントしているところ。プロデュースには悪名高いジャック・ライリーが携わっており、ここがいちばん重要なのだが、ブラザーに所属した南アフリカのフレイムスから2名の新メンバーを迎えた時期の作品集である点だ。メンバーのひとりは、ローリング・ストーンズとの親交も深いブロンディ・チャップリン(ギター/ヴォーカル)、もうひとりは、後にラトルズでも活動するリッキー・ファター(ドラムス)。彼らの持ち込んだリズム・センスや発想力によって風の通り具合は確かに変わったし、何よりもオリジナル・メンバーたちが少なからず刺激を受けている様子も随所でしっかり感じ取れる。

 エルトン・ジョンのお気に入り盤としても有名な『Carl And The Passions “So Tough”』は、新メンバーを招き入れたカール・ウィルソンが旗振り役を買って出た一枚。カールがもとより傾倒していたソウル音楽のエッセンスが随所に感じられるのも特徴で、ゴスペル調の“He Come Down”やブロンディ&リッキー共作のアーシーなバラード“Hold On, Dear Brother”などあちこちに新味が散らばっている。脂が乗り切ったカールの歌声も映えまくり、リッキーが紡ぐファンキーなビートもイカしているし、アルバム全体の雰囲気を言葉にすれば、〈タフな感じで行くぜ〉というふうになろうか。そして何より、デニス・ウィルソンの存在感の大きさが印象的だ。この時期の彼は、天から降ってきた霊的なパワーを見事キャッチするテクに長けていたのだろう、と思わずにいられないほど名曲を量産しており、ここでは“Make It Good”や“Cuddle Up”などのあまりに美しいバラードが登場する。荘厳なストリングスに包まれながらホーリーで幽玄な雰囲気を漂わせたデニス。彼の豊かな才能の結晶というべき初ソロ作『Pacific Ocean Blue』(77年)への入り口がここにあると言っていい。でもアルバムの顔となる1曲は?と問われたら、ブライアン・ウィルソン作の“Marcella”となるだろう。ごくキャッチーなメロディーラインを持ったポップソングがすべてをかっさらっていくというこの結果。流石はブライアン。

 一方の73年1月発表の『Holland』でもまた、ブライアンの貢献度は著しく低い。〈ビーチ・ボーイズの不思議な世界〉といった佇まいを醸す本作、マイク・ラヴとアル・ジャーディンが中心となった組曲が中心に鎮座していたり、ナレーション入りのおとぎ話が登場したり、プロダクションの混乱ぶりというかポイントを絞り切れないメンバーたちの右往左往ぶりが作品の印象にそのまま繋がっている(そもそもオランダへ行ってレコーディングしよう!という発想が不思議極まりない)。でもトム・ペティの愛聴盤だったりする本作にも、デニスとカールが組んだ美曲“Only With You”、リッキーの持ち味がビーチ・ボーイズの世界観にハマった“Leaving This Town”など聴きどころは少なくない。そしてアルバムの代表曲を書いてしまうのがまたしてもブライアン。かつて『Smile』の制作に誠心誠意尽力したヴァン・ダイク・パークスをコラボ相手に書き上げた“Sail On, Sailer”がそれだ。大波のようにうねるコーラスワーク、ブロンディのソウルフルな歌声の響きなどどれをとっても強力で、目の覚めるような名曲に仕上がっている。

 絶えない葛藤や試行錯誤の連続であったことを如実に伝えながらも、実験的な試みに邁進し続けた当時の彼らの姿勢を目の当たりにさせてくれる『Sail On Sailor – 1972』。おすすめしたいのは、未発表音源80曲に未発表曲7曲を追加した6枚組ボックスセット。こちらには質の高いライヴ・テイクが大量に発掘されていて、この頃の彼らこそがバンド史上最高の演奏をいくつも繰り広げていたという事実を認識させてくれるはず。初対面のリスナーが新鮮な驚きを覚えるのはむしろここかもしれないな。

こちらは6CD版。80の未発表音源と7つの未発表曲を含む全105曲を収録!

 

ブロンディ・チャップリンの77年作『Blondie Chaplin』(Asylum/Wounded Bird)

ビーチ・ボーイズ関連の作品を一部紹介。
左から、2011年の編集盤『The Smile Sessions』、66年作の50周年記念盤『Pet Sounds: 50th Anniversary Deluxe Edition』、67年の音源集『1967: Sunshine Tomorrow』、69~71年の音源集『Feel Flows: The Sunflower & Surf’s Up Sessions 1969-1971』(すべてCapitol)

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