その名も『Legend』と題された新天地でのニュー・アルバムは圧倒的な2枚組! 揺るぎない自負で伝統を背負い、痛みを乗り越えて伝説はまだまだ続いていく……

自分が自分であることの誇り

 「アルバムのタイトルに僕の名前を使うのは初めてなんだ。演奏と音楽でそれに応えなければならなかった。そしてこれは、自分が誰であるかを誇りに思い、自分がしてきた仕事に自信がある、そう宣言するものなんだ」。

 その名も『Legend』というニュー・アルバムについてこう語るジョン・レジェンドは、その堂々たる発言にも納得の領域にいる。2004年に華々しいメジャー・デビューを飾ってすぐにヒットメイカーとしての地位を確立し、ポップ・フィールドにもクロスオーヴァーするR&B界のスターと見なされてきた彼だが、現在のポジションは単なる人気者どころじゃない。グラミー12冠のとんでもない実績どころか、エミー賞/グラミー賞/アカデミー賞/トニー賞の米国4大アワードに輝き、いわゆる〈EGOT〉を制覇しているのだ。通常ノミネートを経ての〈EGOT〉達成は、黒人男性としても、R&Bシンガーとしても現時点で唯一の存在であって、エンターテイメント界におけるステイタスには揺るぎないものがある。

 そうした古典的な権威においても評価される一方、人種差別など社会問題に対しても彼が積極的に行動しているのは言うまでもない。つまり商業的にも批評的にも信頼を寄せられ、業界内での強さも新たな価値観における評価も兼備している。近年のトピックでいうと東京オリンピック開会式への唐突な登場を記憶している人もいるはずだが、それも不思議なことではないのだろう。つまり、当初は名乗るのを躊躇したという〈レジェンド〉に相応しい存在だと、ここにきてようやく当人が自覚した表れが今回の『Legend』なのかもしれない。

JOHN LEGEND 『Legend』 Republic/ユニバーサル(2022)

 ニュー・アルバムが示す具体的な節目としては、今作がリパブリック移籍後の初めてのアルバムであることも重要だ。カニエ・ウェスト率いるG.O.O.D.に見い出されてコロムビアと契約し、数年前にG.O.O.D.を離れた彼にとって、15年以上も在籍したコロムビアからの移籍は2度目の独立とも言える。その移籍そのものに伴う大きな変化はないとしても、ジョン自身がリフレッシュしたのは明らかで、ボーナストラックも含む全28曲入りの『Legend』は彼にとって初の2枚組アルバムとなった。

 資料によると〈Act I〉〈Act II〉と題された2枚のディスクはそれぞれ「〈Act I〉は土曜の夜のヴァイブスで、僕のパーティーな面を表現している。〈Act II〉はどちらかというと日曜の朝のヴァイブスで、1枚目に比べると大人しめな曲が多い」とのこと。そうしたムードで区分されたテーマのダブル・アルバムといえば往年の『Happy People / U Saved Me』を思い出さなくもないが、〈Act II〉が日曜朝のチャーチな気分で固められているわけでもなく、リリジャスというよりはスピリチュアルと形容したほうがいいかもしれない。そんな今作の共同エグゼクティヴ・プロデューサーを務め、大半の楽曲プロデュースにも直接タッチしているのは、前作『Bigger Love』のタイトル曲でも組んでいたライアン・テダー。まろやかなポップネスを忘れない舵取りには彼のセンスも大いに作用していそうだし、それはまた主役自身が持ち合わせたものでもあるだろう。2幕を通じて多彩なゲストが多く招かれているのも本作の特徴で、特に女性アーティストが目立っているのもアルバム全体のテーマに即したものかもしれない。