〈World Music Festival @ Taiwan〉運営チーム

多様な民族と言語に光を当てるキュレーション

――2020年はコロナ禍によって中止を余儀なくされています。今年はようやく以前の規模へと戻り、感慨深さもひとしおかと思います。ここに至るまでに大変だったことは何ですか?

「コロナを取り巻く状況は目まぐるしく変化していきますし、予測不能です。政府の方針もその都度変わるので、それに合わせなければいけないのが何より大変でした。〈World Music Festival @ Taiwan〉は海外のアーティストや音楽関係者も数多く招致しているので、ビザの発行や労働許可の申請、防疫ホテルの確保など、やらなければならないことがたくさんあります。

ただ、私がラッキーなのはチームに恵まれていることです。先日、政府が10月13日から隔離を完全撤廃する、と発表した時は思わずテレビの前で叫んでしまいましたが、チームのみんなが〈落ち着いて、みんなでなんとかしよう〉と励ましてくれたことで、平静を取り戻すことができました。予期せぬ事態に遭遇しても、みんなで協力しながら乗り切ってきたからこそ実現できたことです」

葉穎(Leaf Yeh)

――台湾の伝統音楽である北管を取り入れたロックバンド、百合花(Lilium)や、コンテンポラリーフォークを奏でる葉穎(Leaf Yeh)など、多くの人がイメージするような〈いわゆるワールドミュージック〉ではない、オルタナティブなアーティストたちの出演も目を引きます。ここにはどんな意図があるんですか?

「とても興味深い質問です。これに答えるためにはそもそもの〈ワールドミュージック〉の定義から話し合わないといけませんね。私自身は〈世界中のさまざまな音楽〉と解釈していて、それは伝統音楽や民族音楽、民謡などに限定されるものではありません。本フェスでジャズのアーティストが多いのもそれが理由です。そして、政府が後援している以上、あらゆる民族とその言語にスポットライトを当てる必要があります。

百合花は閩南語(河洛語)、葉穎は客家語で歌っていますし、その音楽性だけでなく、使用されている言語も彼らをワールドミュージックとして位置付ける重要な要素であると私たちは考えています。その一方で、外国人など言語の違いが分からない人にとってはワールドミュージックではなく、むしろロックやポップスのように聞こえることもあるでしょう。キュレーションする時はそういった葛藤が常にありますが、できる限り多様性を出していきたいと考えています」

※編集部注 閩南(びんなん)語・河洛語(ホーロー)語は台湾語のこと。客家(ハッカ)語は主に漢民族の客家人が使用する言語

葉穎の2022年のライブ動画

 

韓国でWind Musicを紹介する黃珮迪

伝統音楽の価値を認め積極的に発信する韓国

――台湾の伝統音楽・民族音楽のシーンを育み、台湾人アーティストたちを世界にプロモーションしていく上で何が必要だと考えてますか?

「台湾の伝統音楽・民族音楽は、一般的にとてもローカルな存在だとみなされています。私自身、台湾の伝統楽器を演奏しているので、それを取り巻く状況はよく理解しています。文化を育み、より多くの人に知ってもらうには時間がかかりますし、政府や教育機関からのサポートも不可欠です。

例えば、韓国は自分達の伝統音楽の価値をとてもよく理解しているので、政府が積極的にサポートしています。ワールドミュージックのマーケットは大きいですし、自国からシーンを賑わす優れた才能が現れることのメリットをよく理解しているんです。韓国は15~20年前から自国の学生たちを海外に送り込み、インターナショナルマーケティングを学ばせてきましたし、それはK-Popのみならずワールドミュージックにおいても有効なんだと思います。そして、韓国のアーティストは総じて英語力も高いので、コミュニケーションも円滑なんですよね。

世界最大級のワールドミュージックフェスティバルでは、必ずといっていいほど韓国のアーティストが参加しています。そしてパフォーマンス力も優れているので、オーディエンスの多くが魅了されています。そういった活動の積み重ねから、ワールドミュージックのシーンにおける韓国のプレゼンスが高まっているんです」

ヘイ・ストリング(Hey String)の2022年のライブ動画。ヘイ・ストリングは朝鮮半島の伝統楽器、伽耶琴を演奏する実験的なトリオ

――出演者を選定する上で満たすべき要件はあるんですか?

「スキルがあるはもちろん、オーディエンスとどこまで通じ合えるのかも大切な要素です。また、毎年新しい試みが欲しいので、多様性も意識しています。あとはワークショップができるアーティストも重宝しますね。今年はエストニアのコンテンポラリーフォークデュオのプーループ(Puuluup)がエストニアの伝統的な踊りと音楽を紹介するワークショップを行います」

プーループの2019年のライブ動画

――今年は日本からは金曲奨も受賞しているジャズトリオ、東京中央線が出演しますよね。台湾人の視点で、日本の音楽に対してはどのような思いがありますか?

「ご存知の通り、台湾人の多くは日本が大好きですし、歴史的にも日本の伝統文化についてよく理解しています。なので、日本人アーティストの参加はいつでも大歓迎です。特に今興味があるのはアイヌのアーティストたち。是非台湾で演奏してもらいたいです」

東京中央線の2021年のライブ動画

 

 


LIVE INFORMATION
2022 World Music Festival @ Taiwan

2022年10月14日(金)~10月16日(日)台湾・台北 大佳河濱公園8~9號水門
出演:Alena Murang(馬來西亞)/Caiti Baker(澳洲、紐西蘭)/Puuluup(愛沙尼亞)/菲律賓樂舞 by Talahib People’s Music(菲律賓)/Hey String(韓國)/東京中央線 feat. 明馬丁(日本、阿根廷)/黃珮舒 × 台北愛樂室內合唱團 Taipei Philharmonic Chamber Choir/落日瑜珈 × YK band - YK樂團/金音仨- 吳政君 × 陳思銘 × 若池敏弘/傳奇雙擊 - 黃瑞豐 × 吳政君/音舞共生 - 琴人樂坊 Musicians’ House × OVER the TOP/以莉. 高露 Ilid Kaolo/舞思愛 Usay Kawlu/舞思愛/陳建年 Paudull/蘇珮卿 Paige Su + TFM/百合花/魏廣晧 Stacey Wei/葉穎 Leaf Yeh/春麵樂隊 Chu Noodle/畫像五重奏 川樂團/MyMusic Live Podcast《萬秀孫代客洗衣》萬秀洗衣店 Want Show Laundry
配信URL:https://www.youtube.com/c/WMFtaiwan ※一部、配信されないアーティストもいます

〈2022 World Music Festival @ Taiwan〉タイムスケジュール

※タイムスケジュールは台湾時間です。日本時間は+1時間です
※配信で視聴可能なプログラムは赤丸で印を付けています

〈World Music Festival @ Taiwan〉は、台湾の音楽を世界へ発信し、世界のさまざまな民族音楽を台湾に紹介することを目的とした、台湾で最大の野外ワールドミュージックイベントです。台湾の文化部(台湾の文化芸術における最高行政機関)で、映画・ラジオ・TV・ポピュラーミュージックの発展に寄与する〈影視及流行音楽産業局〉が後援し、Wind Musicによってオーガナイズされています。
https://wmftaiwan.com/

 


PROFILE: Wind Music(風潮音樂)
Wind Musicは88年の創業以来、人々の生活と精神性の向上を目指し、音楽を中心とする多彩なサービスを提供してきました。民族音楽・伝統音楽やニューエイジミュージック、児童音楽を中心に、ローカルな視点で上質な音楽を世界発信し、これまでに金曲奨で74回の受賞、グラミー賞で6回のノミネートを果たしてしています。台湾の音楽を世界中にプロモーションすると同時に、海外の音楽を台湾に紹介する活動も行っています。〈Wind Music, Touch The World〉をビジョンとして掲げ、〈人間性・融合・革新〉という3つのコアバリューを大切にしながら、音楽レーベルやアーティストマネージメント、フェスの運営など幅広く事業を展開しています。