2023年3月18日(土)に東京・銀座のヤマハホールで開催されるコンサート〈珠玉のリサイタル&室内楽 三村奈々恵 presents World of Post-Classical(ポスト・クラシカルの世界)〉。この公演は、いま欧米を中心に人気になっている新たなクラシック音楽を身近に感じ、親しみやすく楽しめるものとして、マリンバ奏者の三村奈々恵が企画したものだ。
伝統的なクラシック音楽を背景しながらも、いわゆる〈現代音楽〉の実験を踏まえて、美的な発展と進化を経たポストクラシカルミュージック。近年は、旧来のクラシックの磁場から離れた〈インディークラシック〉も盛り上がっており、ポップやロック、ダンスミュージック、アンビエントといったジャンルとの結びつきもかなり深まっている。多くの人に求められて広がっている、非常にポテンシャルの高い音楽だと言えるだろう。
そんな次世代のクラシック音楽への強い愛を持ち、国内外を舞台に活躍している世界的なマリンバ奏者の三村が肝いりの選曲を行い、プログラムを組んだのがこの公演。意義深いライブの開催に向けて、三村と出演者の一人であるピアニストの林正樹にインタビューする機会を得た。企画意図、現代音楽やポストクラシカルを巡る状況について踏み込んだ内容になったので、ぜひこの対話を読んでヤマハホールに足を運んでほしい。
ポストクラシカルの起源と最前線を紹介
――〈三村奈々恵 presents World of Post-Classical(ポスト・クラシカルの世界)〉。まずはこの公演のコンセプトや企画についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
三村奈々恵「いわゆる現代音楽の一般的なイメージは、無調や複雑なリズムなど、〈難解で聴くのが難しい〉というものが広がっていると思うんです。
一方で、アルヴォ・ペルトなどの作曲家を中心に調性回帰が始まり、2000年代以降はジャンル分けできない新しい音楽が欧米で生まれ、私と同世代のアーティストが続々と現れました。そういった音楽はインディークラシックやポストクラシカル/ネオクラシカルと呼ばれていて、聴きやすさもあり、アコースティックな楽器を使っています。また、エレクトロニクスとの融合やミニマルミュージックからの影響が色濃いのも特徴ですね。
いま欧米では最も人気の高いジャンルになっていて、私も学生時代からスティーヴ・ライヒやエイフェックス・ツインを聴いていたので、まさに自分が求めていた音楽がようやく世界的に定着してきているという実感があるんです。なので、ぜひこの音楽をもっと多くの方に聴いていただきたいなと思って、第1回を企画しました。
まずはポストクラシカルの起源と、現代に生きる新進気鋭、最前線の作曲家の作品をご紹介する、というコンセプトです」
――なるほど。林さんのポストクラシカルに対する印象は、どういったものでしょうか?
林正樹「ジャンル分けにこだわってない部分があるのですが、僕の作曲やアーティスト活動はもともとジャズから来ています。ただ、ジャズシーンに完全に馴染めていない自分もいて(笑)。
スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスのミニマル音楽は、大学生の頃に知って親しんでいました。さらに、僕の作品のリズムの元になるものとして、ポリリズムや変拍子は初期から取り入れているんですね。
自分の音楽性は変化もしていて、近年はピアノのアコースティックな響きをどうすればより美しく届けられるかを強く意識しています。なので、自分の音楽のジャンルは、実はポストクラシカルにけっこう近いんじゃないかなと。アドリブ色が強くなると、どうしてもジャズに分類されちゃうんですけど、楽器のアンサンブルや音の響きの考え方はポストクラシカルに近い。
なので、奈々恵さんからお声がけいただいて、自分が聴きたい音楽を実際にやれるのがすごくうれしいですね」
――三村さんは、どうして林さんに白羽の矢を立てたのでしょうか?
三村「10年ほど前に何度かコンサートで共演させていただいたのですが、林さんのピアノはその頃から特別な響きを持っていました。あれほど透明感がある美しい音を出せる方とご一緒したのは初めてで、感動しましたね。オリジナルの曲も大好きで、隠れファンとしてアルバムをずっと聴かせていただいております(笑)。
なので、このコンセプトのコンサートを開くにあたって、〈もう林さんしかいない〉と思い、オファーさせていただきました。こういった音楽を根本から理解してくださる方は、やっぱり林さんですね。すべてがマッチしていました」
林「ありがとうございます! 今回の企画や構成をお聞きして、僕が思っていた奈々恵さんの印象とは少しちがったんですね。もちろんお会いしていなかった期間のブランクもあるのですが」
三村「こういった面もありました(笑)。私は、バロック以降の各時代のクラシックをマリンバ用に自分で編曲したものからマリンバコンチェルト、ニューエイジ的なものやクロスオーバー、バリバリの現代音楽まで、いろいろな音楽をやらせていただいてるので、そう思われるかもしれません」
林「海外で頻繁に演奏されていて、世界の音楽シーンのことを見ていらっしゃる三村さんが日本でこういう試みされることは、ありがたいですね。自分がやろうとしてる音楽の認知にも繋がるんじゃないかなと思っています」