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コンプレッサーを使っていないこと、高周波数の復活

MFSL盤『Thriller』に語るべきことは多いが、なかでも2つの特徴は特筆される。まず、MFSL盤はマスタリングプロセスで一切コンプレッサーを使っていない。コンプレッサーとは現実の録音で音を大きく聞かせるためのデバイスだ。この点で、バーニー・グランドマンの初回マスタリングは名人芸と呼べるものだった。

コンプレッサーを排除すると見かけの音量は下がる。そのため、MFSL盤は音量を上げて聴くことが求められる。それを守れば、たとえばスピーカーからマシンガンのように飛び出てくる冒頭のドラムからリスナーはめまいを感じることだろう。

『Thriller』収録曲“Wanna Be Startin’ Somethin’”

また、ポール・マッカートニーのボーカルがこれまでになく生なましく聞こえることに驚く人は多いはずだ。ポールは自分の録音ではコンプレッサーを好んで用いるので(おそらく昔のラジオの音をモデルにしているのかもしれない)、彼のボーカルがMFSL盤のように聴ける機会はあまりない。

『Thriller』収録曲“The Girl Is Mine”

もう一つの特徴が、マスターテープに存在するハイエンド周波数情報の復活だ。初回CDではもちろんその上限は22kHzまでだった。また、初回レコードは、当時の慣習により、高域を18kHzでカットしていた。エピックのSACDと同様に、MFSL盤もSACDならではの技術的利点を活かし、そのスペクトラムは30kHzにまで達している。

 

考えられる最高のサウンドを届けるディスク

MFSLのショーン・ブリトンが新たにマスタリングした『Thriller』は、かつてのようなティーンエイジャーのためのダンスレコードではないかもしれない。音量や装置の性質などの条件が満たされないと、ただの迫力のないサウンドに聞こえるかもしれない。しかし、これは、82年にバーニー・グランドマンがヒットレコードとして完成させる前にクインシーとスウェディーンがミックスしたマスターを、オーディオファイルのために、考えられる最高のサウンドでプレゼンテーションしたディスクだと言うことができる。

タワーレコードのYouTube動画〈【SA-CD普及委員会】#03 SA-CDとCD聴き比べ~朝比奈隆のベートーヴェン〉

 


RELEASE INFORMATION

MICHAEL JACKSON 『Thriller (Mobile Fidelity SACD)』 Epic/Legacy(2022)

リリース日:2022年11月18日
品番:UDSACD2251

TRACKLIST
1. Wanna Be Startin’ Somethin’
2. Baby Be Mine
3. The Girl Is Mine
4. Thriller
5. Beat It
6. Billie Jean
7. Human Nature
8. P.Y.T. (Pretty Young Thing)
9. The Lady In My Life