©Marco Borggreve

スティーヴ・ライヒの傑作“18人の音楽家のための音楽”
日本で15年ぶりとなる生演奏を聴き逃すな!

 マリンバとピアノが〈タンタンタンタン……〉とパルスを叩き始めると、女声ヴォーカルのスキャットがそこに加わり、バスクラリネットが大波のようにうねりながら、音楽は桃源郷を思わせる境地に向かっていく……。スティーヴ・ライヒの“18人の音楽家のための音楽”を、読者はライヴで聴いたことがあるか? ここ10年のあいだにライヒの音楽を知ったリスナーには、少々酷な問い掛けかもしれない。なにしろ“18人”が日本で最後に生演奏されたのは、今から15年も前のことだから。その15年前の演奏の翌日、ライヒが僕にこう言っていた。「もう70歳を過ぎてるから、サプリ飲んでも1時間演奏するのがキツイんだよ」。現在ライヒは86歳。もちろん15年前と同じく、かくしゃくとしているけれど、彼が“18人”の演奏に自ら参加することは、高齢と肉体的負担から、ほぼありえない。

 だが幸いなことに、ライヒが現役奏者として活動していた頃と同じクオリティ、いや、それ以上のクオリティで“18人”を演奏する団体がある。世界有数の打楽器奏者コリン・カリーが率いるコリン・カリー・グループと、ライヒの声楽作品(またはアンサンブル曲の声楽パート)を四半世紀以上も歌い続けてきたシナジー・ヴォーカルズだ。

 2006年、ライヒの“ドラミング”を演奏するために結成されたコリン・カリー・グループは、これまで15年以上の時間をかけて、ほぼすべてライヒのアンサンブル曲の演奏に取り組んできた。一方、シナジー・ヴォーカルズは21世紀に入ってからのライヒの声楽つきの新作のほぼすべてを初演してきたヴォーカル・グループである。

 このふたつのグループがコンビを組んで、ライヒを演奏したらどうなるか? その凄さは、過去2回の来日公演(いずれも東京オペラシティ コンサートホール)で実証済みだ。ライヒ自身のアンサンブル以上の正確なリズムとグルーヴ感で、聴衆を圧倒した2012年の“ドラミング”公演。そして、エモーショナルかつ熱狂的な演奏で聴衆の度肝を抜いた2017年の“テヒリーム”公演。特に後者の公演は、ライヒをして「今晩、ここにいるグループほど素晴らしい演奏は聴いたことがありません。もしも演奏がお気に召さなければ、それは作曲者である私の責任です」と言わしめたほどである。

 これまでコリン・カリー・グループが“18人”を演奏した回数は、この10年ですでに20回近くに及ぶ。つまり、半年に1回は演奏している計算になるわけで、この作品の演奏に要するハンパない準備を考慮すると、尋常でないペースだということがわかる。しかも、そのいくつかは、ライヒ本人が演奏に立ち会って監修している。つまり、現時点で最高の“18人”を聴きたかったら、四の五の言わずにコリン・カリー・グループのライヴに足を運ぶのが、最も確実な手段なのだ。

 しかも今回の来日公演では“18人”の演奏に加え、ライヒがコリン・カリー・グループとシナジー・ヴォーカルズのために書き下ろした最新作“トラベラーズ・プレイヤー”が日本初演される。我々がライヒという名前から連想する〈フェイズ〉や〈パルス〉とは全く無縁の音楽語法で書かれたこの作品は、パンデミック以降のライヒの音楽的思考を理解する上で欠くことのできない重要作と言えるだろう。

 さらにもうひとつ、この原稿を書いている最中に、ビッグニュースが飛び込んできた。昨年11月にコリン・カリー・グループとシナジー・ヴォーカルズがスタジオ録音した“18人”が、なんと4月の来日公演のタイミングに併せて全世界でSACDリリース・配信されるというのである! 収録場所は、ザ・ビートルズ録音で有名なアビイ・ロード・スタジオ2。そして配信音源は、なんとドルビーアトモスでミックスされるという。

 かつてライヒ自身がECMレーベルやNonesuchレーベルに録音した“18人”の演奏は、もちろん今聴いても素晴らしい。だが、21世紀に入ってから演奏技術も録音技術も進化を遂げ、“18人”という作品そのものも進化を続けている。約半世紀前に書かれた音楽ではなく、今の時代に見合った“18人”を知りたかったら、コリン・カリー・グループとシナジー・ヴォーカルズの生演奏と録音を聴くしかない。

 


コリン・カリー(Colin Currie)
2000年にロイヤル・フィルハーモニック協会ヤング・アーティスト賞を、2005年にボルレッティ=ブイトーニ・トラスト賞を受賞。ジェニファー・ヒグドン“パーカッション協奏曲”(マリン・オールソップ指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団)は、2010年のグラミー賞を受賞。〈コリン・カリー・グループ〉は、ライヒの特徴的な作品“ドラミング”の演奏で高い評価を受け続けている。2012年と2017年に東京オペラシティで、2013年にはアムステルダム・コンセルトヘボウで演奏会を行ない、国際的にも成功を続けている。

 


LIVE INFORMATION
コリン・カリー・グループ
ライヒ《18人の音楽家のための音楽》

2023年4月21日(金)東京・初台 東京オペラシティコンサートホール:タケミツ メモリアル
開演:19:00

2023年4月22日(土)
開演:15:00
出演:
コリン・カリー(パーカッション/指揮)
コリン・カリー・グループ
シナジー・ヴォーカルズ
※スティーヴ・ライヒは来日致しません

■曲目
スティーヴ・ライヒ:
ダブル・セクステット(2007)
トラベラーズ・プレイヤー(2020)[日本初演]
[オランダ公共放送アムステルダム土曜マチネ/サウスバンクセンター/カーネギーホール/フィルハーモニー・ド・パリ/ハンブルク・エルプフィルハーモニー/バークレー・カルパフォーマンス/東京オペラシティ文化財団共同委嘱]
18人の音楽家のための音楽(1974〜76)

■チケット
S:9,000円
A:7,000円
B:5,000円
C:4,000円
(全席指定・税込)
演奏会当日に残席がある場合、学生券を5,000円で販売します(要学生証)。当日10時より東京オペラシティチケットセンターへお問い合わせください。
東京オペラシティチケットセンター:03-5353-9999/https://www.operacity.jp
チケットぴあ:https://t.pia.jp(Pコード:232-007)
イープラス:https://eplus.jp/
*曲目、出演者等は、変更になる場合がございますのでご了承ください。
*就学前のお子様の同伴・入場はご遠慮ください。
*ネットオークション等での営利目的の転売はお断りします。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=15706