©Michiyuki Ohba

ミニマル・ミュージックの王道作品から紡ぎ出される新しい鼓動。

 ミニマル・ミュージックの創始者であり、80歳を超えてなお作曲活動を続けるスティーヴ・ライヒ。そのミニマル技法が生まれて既に50年を超えるが、現代音楽の世界だけでなく、映画や舞台音楽からDJミュージシャンに至るまで、現在もその影響力は衰えていない。

 ライヒの器楽作品を、多重録音を駆使して1人でライヴ演奏してしまうことで知られるパーカッショニストの加藤訓子。10月と12月に展開される2つのプロジェクトを前に、ご本人に話をうかがった。


 

――直接お話をするのは、随分お久しぶりですが、最初にお目にかかったのは、加藤さんがベルギーを拠点に、アンサンブル・イクトゥスなどで活動されていた頃でしょうか。イクトゥスではダンス・カンパニー〈ローザス〉とのコラボレーションでも、多くのライヒ作品を世界各地で演奏してこれられました。その後、ライヒのアンサンブル作品を、曲の全パートを1人で演奏するスタイルで、ライヴやCDを発表していらっしゃいます。近年は活動の拠点をアメリカに移されましたが、日本での活動も増えていますね。

「そうですね、コロナの影響もあって、日本での活動も増えましたね」

――10月のコンサートは、長年追求されているライヒの器楽作品の多重録音+ソロ演奏のライヴ。そして12月の2日間のコンサートでは、ライヒのアンサンブル作品の代表作がずらりと並びます。

「私は、ライヒさんの70年代の作品、ミニマルの王道を行くスタイルの作品が大好きなんです。音が1音ずつ増えてゆく時のハプニングというかイヴェントの大切さ。1音が増えてゆくことのエネルギー。全ての音があるべきところに置かれ、その中でリズムやハーモニーが組み立てられていくと、そこに自然なグルーヴが生まれ、やがて万華鏡のように色々な楽器の音色の組み合わせやリズム・パターンが紡ぎ出されていって、最後には天国に昇ってゆく感じがあるんですよ」

――今回演奏される“ドラミング”(1971)も、まさにそういった作品ですが、CDでは、なんと声のパートも全て加藤さん自身で演奏していらっしゃるんですね。

「ライヒ自身も作曲中に声を出していたという話を聞いたことがありますが、演奏していると、打楽器、特にマリンバの撥のアタックの音色から広がる音の余韻=レゾナンスの中に〈声〉が聞こえてくることがあるんですよ。〈声〉のパートは、そうしたマリンバのレゾナンスの中から自然に湧き上がってくるもので、それを聞かせたいために〈声〉のパートが加わっているのだと思います。自分で全部のマリンバのパートを演奏していることもあって、そのことを自然に感じながら歌っているように思います」

――なるほど。専門の歌手ではないのに、どうしてこれほど自然に美しいヴォイスが乗っているのか、ちょっと不思議な気がしていたんですが、そういうことなんですね。

「実はライヒさんに1人多重録音ヴァージョンを最初に聞いてもらった時、〈ところで歌とピッコロは誰がやっているんだい?〉と訊かれ、恐るおそる〈それも自分でやってます。〉と答えると、〈それはすごい! それでこそ1人でやる意味があるというものだよ。〉と、OKをもらいました(笑)」

――12月の“ドラミング”は、プリレコーディングの経験を通して、曲の各パートの隅々までを知り尽くした加藤さんに特訓(?)を受けたパーカッショニストたちとのアンサンブルですね。

「彼の作品には、パーカッショニストに必要な基礎的な要素がたくさん内包されています。“ドラミング”では、複雑に変化してゆくリズムパターンの背後で規則的なビートが刻まれ続けますが、そこには例えば、祭りの太鼓の血が騒ぐような感覚に根差したものがある筈で、それには身体の芯をブレさせないこと、力を抜いた構えを維持することなど、パーカッショニストに必要とされる基本が要求されます。日本の若いパーカッショニストたちは大学卒業後、演奏家としてやっていくためには、もっと刺激を受けながら成長することが大切という思いもあります」

――日本の打楽器奏者って、外国の奏者と比べると音が小さいですよね。

「そうなんです。小さい音で演奏するのが習慣になっているのか、身振りも小さいんです。小さい音を出す場合でも、全身をのびやかに使って出すことが必要なんですが、練習環境とか住宅事情の問題ですかね。でも、日本人の静の美意識、それこそミニマルな表現の中での細やかな表情とかも大事だと思うんですよ」


 

 10月のライヒ作品の多重録音+ソロ演奏によるコンサートは、各パートの音を発するスピーカー群に加えて、それぞれのパートを演奏する映像もマルチスクリーンに投影される予定という。視覚的な万華鏡効果の中で響きの渦巻きを体験できるに違いない。

 一方、12月の1日目は、豊かな和声や微細な対位法が横溢するカウンターポイント・シリーズの代表作が並び、2日目には“ドラミング”が登場する。2つのプロジェクトを通して、ライヒ作品の持つ密室性と開放感を味わえる贅沢さを満喫してもらいたい。

 


LIVE INFORMATION
めぐろパーシモンホール開館20周年記念
加藤訓子プロデュース スティーヴ・ライヒ プロジェクト

【小ホール公演】
加藤訓子ソロ・パフォーマンス スティーヴ・ライヒ「フェイズ/ドラミング」
日時:2022年10月21日(金)東京・目黒 めぐろパーシモンホール 小ホール

■1回目
開場/開演:14:30/15:00

■2回目
開場/開演:18:30/19:00 ※公演時間約90分

■曲目
ピアノ・フェイズ(ヴィブラフォン編曲版・世界初演)
ドラミング(ソロ・パフォーマンス編曲版)

■料金
全席自由:3,500円
大ホール公演セット割:3,000円(大ホール公演いずれかと同時購入の場合)(ホールチケットセンターのみ取扱い)

【参加型企画】​
ライヒ「ドラミング」「カウンターポイント」レクチャー&「クラッピング・ミュージック」ワークショップ
詳細はめぐろパーシモンホールHP〈参加プログラム〉をご覧ください
https://www.persimmon.or.jp/event/

 

【大ホール公演】​
2022年12月10日(土)、11日(日)東京・目黒 めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:15:30/16:00
出演:加藤訓子(パーカッション)/inc. percussionists 2022(パーカッション・アンサンブル 20名)/吉川真澄/丸山里佳/石田彩音/向笠愛里(vo) ほか

■曲目
DAY 1:12月10日〈カウンターポイント ライヴ〉
ヴァーモント・カウンターポイント(ヴィブラフォンとグロッケン編曲版)
ニューヨーク・カウンターポイント(マリンバ編曲版)
シックス・マリンバ・カウンターポイント
マレット楽器、声とオルガンのための音楽
ナゴヤ・マリンバ/マレット・カルテット

DAY 2:12月11日(日)〈ドラミング ライヴ〉
4オルガンズ(キーボード+マラカス)
木片のための音楽(クラベス5)
ドラミング(ボンゴ、マリンバ、グロッケン、ヴォイス、ピッコロ、口笛)

■料金
全席指定
一般/高校・大学生/小・中学生:3,000円/1,000円/500円
大ホール2日セット券 一般:5,500円(ホールチケットセンターのみ取扱い)
※小ホール公演、大ホール公演ともにスティーヴ・ライヒ本人の来日・出演はありません

 

チケット取り扱い(めぐろパーシモンホールチケットセンター):03-5701-2904(10:00~19:00)/ WEB
主催・お問い合わせ(公益財団法人 目黒区芸術文化振興財団 めぐろパーシモンホール):03-5701-2913/https://www.persimmon.or.jp/
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会