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Photo by Ryo Mitamura

自分を抑制せずエモーショナルな個性を解放

──ヘニング・シュミートをはじめ、高原久実さん、Noah、ダニー・ノーバリー(Danny Norbury)、エマ・ガトリル(Emma Gatrill)といったFLAUから作品を発表しているアーティスト、それから親交の厚いGutevolk、横手ありささんの参加もあり、今回の作品は生楽器の比重を増している点も大きな特徴ですよね。

「僕の音楽出版を担当しているキース・カフーン(タワーレコードの元CEO)に制作途中の音源を聴かせたら、〈ブライアン・イーノみたいだね〉て言われたんですよ。よくよく聞くと、〈アンビエントに寄りすぎている〉てことだったんです。

今までは実機で音を作ってきたのが、新作はハードの音がなくて、個人的にもそれがしっくりきていなかったし、よくよく考えるとFLAUにはピアノの人、ヴァイオリンの人、プレイヤーが多くいるので、いろいろ協力してもらおうと。それによって、エレクトロニックな作品世界に生の要素が加わり、雰囲気がだいぶ変わりました」

──そして、生楽器の比重を増すと同時に、本作はピアノやストリングなどから紡がれるメロディー、フクゾノさんのエモーショナルな部分が際立っていますよね。

「自分の手癖そのままに作るとメロディーが際立つというか、甘ったるくなるというか。そこが自分にとっては恥ずかしかったりするんですけど、今回は敢えて気にせずにそのままやってしまおうと。

アルバムを締め括る“Neanic”は特にそうなんですが、あそこまでドラマティックな構成はあまりないと思うんです。ゲスト参加してくれたベネディクトさんも盛り上がらないアレンジの方が好きだろうな、と思いつつも、エモーショナルなままに曲を締め括ったら、そのせいかしばらく連絡が取れなくなってしまったという(笑)。

というのは冗談にしても、今までの作品は自然とにじみ出るものがあるのに、それを抑制しようとして、どっちつかずの内容になってしまったという反省もあって、今回は自分にブレーキをかけないことで、それが個性につながればいいなと思ったんです」

──自覚的に抑制していた部分を解放したと。

「これまで、自分の甘ったるい部分が嫌いだったというか。兄(本作のヴィジュアルも手がけた映像作家のTAKCOM)からも〈もっとビートを!〉と言われ続けてきましたからね(笑)。

実際、兄はどのジャンルも全方位的に詳しくて、僕はその影響で音楽を聴き始めたんですけど、その後、自分から聴くようになったアーティストがデペッシュ・モードだったんです。作品でいうと、ボーカルのデイヴ・ガーンがドラッグで死にかけていた時期のアルバム『Ultra』(97年)で、〈シンセサイザーを用いた音楽でそこまで深いところまでいけるんだ〉と感動したんです。かたや、子供の頃、エレクトーンを習っていた自分はピアノに対して強いコンプレックスを感じていたし、電子楽器のかっこよさにそこで撃ち抜かれたというか。

だから、デペッシュ・モードをきっかけにエレクトロニックミュージックをどんどん聴くようになり、その流れでこういった音楽に辿り着いたともいえます」

──エモーショナルな今回のアルバムはデペッシュ・モードと直結するものではないかもしれませんけど、耽美性という点では共通するものがあるかもしれませんね。

「アルバムを聴いた兄からは〈ビートを入れたら?〉と言われたんですけどね(笑)」

──メロディーに対するアンビバレントな思いはありつつも、実際のところ、FLAUのレーベル作品しかり、海外から招聘したジュリア・ホルター(Julie Holter)やジュリアナ・バーウィック(Juliana Barwick)、グルーパー(Grouper)らの音楽性しかり、フクゾノさんが手がけたお仕事はメロディーと分かちがたい関係にありますよね。

「それはおっしゃるとおりだと思います。結局のところ、聴いているのはメロディーだし、最終的に残るのもメロディーなんだろうなって」

 

ausの総決算にしてFLAUの総括

──FLAUに関していえば、2006年の設立当初はエレクトロニカのレーベルとして認識されていたと思うんですけど、リリースを重ねるなかで、フクゾノさんご自身もおっしゃっていたとおり、ピアノやヴァイオリンの演奏家が多数所属するようになり、音楽性も色んな領域をまたいだマージナルなもの、折衷的なものへと変化していきましたよね。

「エレクトロニカに限らず、色んな音楽を聴いてきたので、そのテイストが結果的にレーベルや招聘アーティストの音楽性に反映されているんだと思います。自分は作り手でもあるので、自分が作れるもの、想像できるものをリリースしようとは思わないというか、せっかく世に送り出すなら、技術があって、自分にはない音楽性の作品をリリースしたいと思っているので、FLAUはいわゆるエレクトロニカと呼ばれるような作品が意外に少なかったりするんです」

──インタビュー冒頭で、今回のアルバムは過去の総決算的な作品とおっしゃっていましたが、変化を続けてきたレーベルの活動を総括するような作品でもあるのかな、と。

「例えば、ヘニング・シュミートさんはジャズとかワールドミュージックの人なので、いつもの感じで彼にピアノを弾いてもらうと、自分の作品と合わないんですよ。ずっと一緒にやってるバイオリンの高原久実さんもそう。彼女は現代音楽畑の人なので、技巧的なプレイをするし、僕の柔らかくて甘い作品で弾いてもらうと音の鋭さが際立ってしまうんですよね。

でも、今回、そんな彼らと共通点を模索しながらコラボレーションした折衷的な楽曲は、ご指摘の通り、確かにレーベルとしてやろうとしていることと近しいものがあるなと思います。このアルバムでレーベルの型番が100になるので、ちょうど節目の作品になるなと思っていたんですけど、印刷で間違えて101と入れてしまったので、FLAUの100番が欠番になってしまったことがなんともはやという感じです(笑)」

──イギリスのロー・レコーディングズ(Lo Recordings)は、95年の設立以来、Susumu Yokotaやグライムスを世界に知らしめるなど、エレクトロニックミュージックシーンで神出鬼没なリリースを続けているレーベルですが、フクゾノさんはどんな印象をお持ちですか?

「イギリスの仲のいいDJが紹介してくれたんです。ロー・レコーディングズは、常にその時々のトレンドと一定の距離を維持し続けている印象がありますね。でも、全く無関係な動きをしているかというと、そういうことでもなく、タイミングによってはシーンの動きとリンクする瞬間もあったりしつつ、長く走り続けているレーベルだなって。

確かにリリースしてきた作品は神出鬼没な印象があったし、レーベルカラーと自分の作品は合うんだろうかと思ったんですが、意外にもオーナー(シーホークス、ブレイン・マシーンとしても活動する)ジョン・タイ(Jon Tye)が気に入ってくれたことはうれしい驚きでした」

 

〈室内楽を屋外に出す〉イメージの“Until Then”

──リリース順とは逆になってしまいますが、アルバムリリース前にFLAUから発表したシングル“Until Then”は、ボノボやフローティング・ポインツ、フォー・テットの作風とも通じる、ベースミュージックを通過したモダンなディープハウストラックです。個人的にはausの現在、未来が投影された作品であるように思ったのですが、フクゾノさんのなかこのシングルはどのような位置づけなんでしょうか?

「順番的には最初にアルバムを完成させたんですが、ロー・レコーディングズからの連絡が滞ってしまって、その間に制作した曲がシングルになりました。

過去とのバランスを取りながら制作したアルバムに対して、シングルはいまの自分というか、これから作っていくのはこういうダンストラックになるんじゃないかなって。ずっとストリングスや室内楽的な要素をダンスミュージックに応用する上手いやり方が長らく見つからなかったんです。でも、“Until Then”は作っている最中に上手く噛み合って、自分のイメージとしては室内楽を屋外に出すようなイメージで出来た作品ですね」

2023年のシングル“Until Then”

──言い換えるなら、内面的なアルバムに対して、最新の作品であるシングルは外に開かれていると。ダンスミュージックに特化した、まとまった作品も聴いてみたいです。

「アルバムとなると、どうしてもバランスを取ってしまいがちになるし、いまはシングルだったり、配信でフットワーク軽くリリースするのが主流の時代だったりもするので、そういったリリースの仕方も模索しながらやっていきたいですね」

 


RELEASE INFORMATION

aus 『Everis』 Lo/FLAU(2023)

リリース日:2023年4月26日(水)
フォーマット:LP/CD/DIGITAL
配信リンク:https://aus.lnk.to/Everis

TRACKLIST
1. Halsar Weiter
2. Landia
3. Past From
4. Steps
5. Make Me Me
6. Flo
7. Swim
8. Memories
9. Further
10. Neanic

 


PROFILE: aus
東京出身。10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。早くから海外で注目を集め、米NYのインディーレーベルよりデビュー。伝説的なレコードショップ、アザー・ミュージックに〈現代のエッジと甘美さ、印象的な歌心をこれほど日本的な方法で融合させたアーティストは他にいない〉と評される。これまでにヨーロッパを中心に世界の35都市でライブを行い、国際的にも注目されるレコードレーベル、FLAUを主宰。米FADER、英i-D、Dummyなどにミックスを提供、現在は香港のインターネットラジオ〈HKCR〉でレジデンスを務める。また、海外アーティストの招聘も積極的に行っており、オーラヴル・アルナルズ(Ólafur Arnalds)やジュリア・ホルター(Julia Holter)、ジュリアナ・バーウィック(Julianna Barwick)、グルーパー(Grouper)らの来日公演を成功させ、静謐でユニークな音楽を紹介するショーケース〈FOUNDLAND〉を継続的にオーガナイズしている。長らく自身の音楽活動は休止していたが、 2022年、「BBC Radio 3」でオーラヴル・アルナルズがニューアルバム『Everis』の収録曲“Neanic”をオンエアー。2023年、セブ・ワイルドブラッド(Seb Wildblood)率いるオール・マイ・ソウツ(All My Thoughts)よりシングル“Until Then”を1月にリリース。