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もっと深いところに入っておいで

――たしかに、〈Galileo Galileiが好き〉〈影響を受けた〉という声をよく聞くようになったのは、逆にここ7年のことだったかもしれません。

岩井「そういう意味ではこの7年間、Galileo Galileiの音楽は沈黙していなかったんですよね。

僕ら自身、時代に迎合しなかったし、その時々のサウンド感は意識していなくて、どちらかというとルーツミュージックを愛していたりする。もちろん、最新のヒットチャートに入る音楽も好きなんですけど、時代感と関係なくずっと聴いてもらえる作品が好きだった。そういう姿勢が核にあったことに、この7年があったからこそ気づかされました」

――7年って、忘れられてもしかたないほどに短くない時間だとも思うんです。

雄貴「僕は正直、忘れ去られていると思っていました。始動の発表も〈warbearのライブのアンコールで言っちゃおうぜ〉というノリだったので、〈Galileo Galileiなんてバンドがいたんだね〉というところからスタートするんじゃないかなって。なので、ずっと不思議な気持ちでいっぱいですね。浮かれていないし、メンバーも冷静に今の状況を真正面から捉えている。

僕らを迎え入れてくれた人たちにただただ愛を持っているだけなので、〈みんな、僕らの音楽を聴いてくれてありがとう。これからもっと深いところに入っておいでよ〉としか思っていません。僕としては、〈7年〉という数字にあまり意味はなかったと思います」

――特に“青い栞”などは時と場所を超えて聴き継がれていることもあって、7年間は沈黙ではなく増幅していった期間だったのかもしれません。

雄貴「僕はバンドを続けられなかったから終了させたし、〈7年を置こう〉〈またやるだろう〉とも考えていなくて、実際、始動させようと思ったタイミングまでGalileo Galileiのことなんて頭になかったんです。でも、パッと思い浮かんで、岩井くんに話を持ちかけたことからスタートした。

僕がその間に起こったことでいちばん感動しているのは、7年の間にGalileo Galileiの音楽が止まっていたんじゃなくて、ファンのみんなの人生と一緒に生き続けて成長していたこと。それを感じた時、〈なんて素晴らしいことなんだ!〉と思って。これからのツアーで、それをもっと実感するだろうなと思っています」

〈THE FIRST TAKE〉でのパフォーマンス動画

〈Bee and The Whales Tour 2023〉トレーラー

 

4人の狂気に近い喜びが全編に出ている

――では、新作の話に移りたいと思います。『Bee and The Whales』の資料には、〈何にも縛られない自由〉〈共に生きること〉〈喜びの解放〉がテーマだとありますね。

雄貴「僕、言語化するのが嫌いというか、言語化ができないんです(笑)。勘違いされたら嫌だけど、対外的に説明する資料に言葉がほしいと言われて、〈う~ん〉と唸りながら後づけで……」

――ひねり出した?

雄貴「そうです(笑)。アルバムを作ってる時は、本当にノーテーマだったんです。〈Bee and The Whales〉という今のGalileo Galileiを表現する言葉だけがあって、それがアルバムとツアーのタイトルになるのは必然でしたが、それ以外に何もなかったんですね。

〈Galileo Galileiらしいことをやろうぜ〉とも、逆に〈冒険してやろうぜ〉とも話さなかった。〈アルバムを作るか〉と緩やかに始めて、できていく中で驚きがたくさんあったし、どんどん燃え上がっていった制作でした」

岩井「そうだね」

雄貴「結果、出来上がったものを聴いた時に感じたのは、〈あっ、俺たち、嬉しかったんだ。楽しかった、喜んでいたんだ〉ということでした。狂気にも近い〈わーい!〉という喜びが全編に出ている、と思ったんです」

『Bee and The Whales』収録曲“色彩”

――岩井さんも同じ感覚ですか?

岩井「そうですね。4人でいるととにかく楽しくてしょうがなくて、それがナチュラルに、ありのままに出ていると思います。なかなかない関係性で、言語化できない複雑な繋がりだと思うんですけど、それが雄貴が言う〈狂気〉に繋がってもいて、そういう雰囲気が思いっきり出ていると思います。

今回はプロデューサーも外部のエンジニアもいないし、ディレクターもマネージメント的な立場のスタッフすらいなかった。ギリギリまでスタッフにデモを聴かせなかったくらい、外部の人が入らない4人だけの閉じられた空間で、わんわんスタジオにこもって、通信を遮断して制作していたんです。たとえば、〈この曲はシングルっぽい〉〈これはアルバム何曲目だよね〉と誰かが言うと、それが影響しちゃうんですよね」

雄貴「褒められるのも危険だよね。仮に〈私はこの曲が好きだな〉と奥さんに言われたら、それは僕の中に残っちゃうんです。なので、〈何も言わないで! 私のかわいい子どもたちなのよ!〉って感じで(笑)。でも、周りの人たちは理解してくれて、僕らがデモを送らなくても待ってくれました」

岩井「そういう工程が、〈新しいGalileo Galilei〉というバンドを形作るうえで必要だったんですよね」

――そういう環境を作り上げるのは、なかなか大変なことですよね。

雄貴「今まで色んなスタッフや場所、レーベルと一緒にやってきて、その人たちとの時間はファンには見えないけど、とても重要なんですよね。ただ、僕らはそれを排除しようとしていたわけじゃなくて、〈めちゃくちゃ最高のアルバム作りたい〉という僕の一番の夢を守るためにもがいていたら、周りに誰もいなくなっていただけで(笑)。なので、今の環境をねらって作ったわけではなくて、すごく自然にできたんです。勝手に暴れていたら、すごく素敵な轍ができていたというか(笑)」

岩井「Galileo Galileiの骨組みを作る時、その支柱をメンバー以外のものにしちゃうと、それがなくなった瞬間に崩れちゃうんですよね」

雄貴「そう。それは経験したことがあるから」

岩井「Galileo Galileiという建築物の材料は、メンバーとメンバーの音楽とファンだけで、あとはそこに対する肉づけなんです。そういう純粋さが新しいGalileo Galileiのファーストアルバムには必要だという思いが、みんなの中に無意識的にあって。僕らは好奇心が強いから、今後どう変わるかはわからないのですが」

――でも、大黒柱は揺るぎないと。

雄貴「メンバーがそれぞれ担っている部分があるし、支え合えている。ただの仲良しこよしとはちがう不思議な関係性で、〈音楽を作りたい、それをファンに届けて喜んでもらいたい〉という超基本的な欲求の絆がちゃんとあるバンドなんです。だから、繋がりはものすごく太くて強い。複雑なバランスですが、ちょっとやそっとじゃ崩れないと思います」