江戸時代の長屋暮らしの市井の人々の日々の営みが丁寧に描かれています。柔らかな線画に見惚れ、まるで落語のようなテンポの良い会話も楽しい。真夏の炎天下で思わず買ってしまう〈ところてん〉、十五夜の窓辺での〈お団子〉、朝ごはんの〈豆腐のお味噌汁〉、雪見での〈夜鳴き蕎麦〉、〈きんぴら〉〈おにぎり〉〈お弁当〉……四季折々の描かれる食べ物がこれまた本当に美味しそう。あとがきからも、この確かな時代検証が、生き生きした人々の描写に繋がっていると実感出来ます。〈不昧公〉で知られる茶人・松平治郷の句から引用されたタイトルの如く、豆腐のようなシンプルでいて飽きのこない作品です。