ジャズの〈いい音〉、作曲で追求し10年
挾間美帆。米ニューヨークを拠点に、日米欧など世界で活躍する若きジャズ作曲家である。2013年のデビューから10年となる2023年は9月に新アルバム『Beyond Orbit』を発売する。新作のコンセプト、新型コロナウイルス禍の3年間を含めた10年間、今後の活動などについて本人に聞いた。
「今年は世界でファーストアルバムが発売されてから10周年です(日本では12年に先行発売)。今回のアルバムは13人編成の〈m_unit〉としては『Dancer In Nowhere』(18年発売。20年のグラミー賞にノミネート)以来5年ぶりのアルバム。学校のクラスメートや先生の紹介などを通じて立ち上げたユニットなので思い入れがあります」
m_unitは〈ジャズ室内楽団〉、あるいは〈ラージアンサンブル〉と表現されることが多いが、これには大きな意味がある。デューク・エリントンやカウント・ベイシーのようなスイングジャズのビッグバンドではなく、ハードバップ期のようなコンボでもない。挾間が目指すのはジャズの即興性を保ちつつ、緻密なアンサンブルや美しいサウンドを計画的に実現するものだからだ。
「メンバー13人は完全固定メンバーではないですが、最初に発した音を聴くだけでワクワクします。彼らの中には育児などでしばらく演奏ができなかったメンバーもいますが、ひとたび音を出せば何も変わってない。今回改めて、メンバーは天才だと思いました。パーソナルな肌感覚、演奏の精神的な深さですね。鎧をつけることなく、ありのままを表現できました」
〈軌道を超えて〉という意味を持つ今作は、挾間本人の音楽活動の総括と今後の〈公約〉といえる内容だ。特に2022年の米モントレー・ジャズフェスティバルの委嘱曲であるエクソプラネット組曲(アルバム3~5曲目)は出色の出来だ。
「アルバムではモントレーの3曲、NYライヴの時に書いた1曲、資生堂のキャンペーン曲の5曲を入れたかった。ほかは私の前作以来5年のキャリアを踏まえ書いた。デビュー当時は学生のような感覚でよりアカデミックでしたが、そこからアルバムを出すごとにユニットでの経験を重ね、肩の力が抜けていく感じがあります」
デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)の首席指揮者、オランダの名門メトロポール・オーケストラの常任客演指揮者も兼務する。自身は36歳とジャズ界では若手だが、日米欧で絶大な存在感を示す。
「デンマークやオランダではメンバー全体を背負うので、自分のやりたいこととのバランスをとるのが難しい。でも、その先に新たな自分のキャリアがあると感じました。私は手先の技術よりも〈いい音〉を重視します。ジャズは即興セッションから生まれるので音を出す教育は不要という人もいますが、楽器を美しく鳴らすことがまず基本。一人一人の性格が反映される音の瞬間を作曲家として捕えたい」
順風満帆に見えた10年間だが、新型コロナ以降は大変だった。逆に言えば、今まで全力で駆け抜けてきた活動を冷静に捉え直す機会となった。
「精神的に厳しい時期でした。コロナが始まった時はNYにいましたが、当時は政治的に国が大きく分断されていた。私はコロナ前から依頼されていた仕事があったので心の支えになりましたが、ミュージシャン仲間は皆大変。そんな時、地球のことを考えるのをやめ、宇宙をテーマに書いたのがアルバムの3~5曲目の組曲です」
挾間がデビュー当時から意識していたのが〈ジャズ作曲家〉という肩書だった。
「この肩書で逆に、ジャズ以外の人から声をかけてもらい、ジャンルを超えたコラボができました。いつか〈ジャズ〉が取れて、〈作曲家〉として通じるようになりたい」
8月25日には〈シンフォニック・ジャズ〉に関する公演を東京芸術劇場で企画。アルバム発売後、9月中は日本国内をツアーで回る。
「ジャズとは何か? 簡単に言えば音楽の会話。私は作曲家としてミュージシャン同士の音での会話をお膳立てしたい。作曲家というのは演出家、プロデューサーに近い。これからもいい作品、いいコンサートを一つでも多く作りたいです」
LIVE INFORMATION
デビュー10周年&“ビヨンド・オービット”発売記念
挾間美帆m_unit日本ツアー2023
2023年9月15日(金)栃木・那須野が原ハーモニーホール
2023年9月17日(日)金沢・北國新聞赤羽ホール 「金沢ジャズストリート2023」
2023年9月18日(月・祝)愛知・刈谷市総合文化センター アイリス
2023年9月23日(土・祝)静岡・グランシップ中ホール・大地
2023年9月24日(日)新潟・長岡市立劇場・大ホール
2023年9月29日(金)東京・文京シビックホール・大ホール
2023年9月30日(土)大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
https://www.jamrice.co.jp/miho/
東京JAZZ 2023
NEO SYMPHONIC JAZZ at 芸劇 -Mirage Future-
プロデュース・指揮:挾間美帆
2023年8月25日(金)東京・東京芸術劇場コンサートホール
出演:東京フィルハーモニー交響楽団
featuring: BIGYUKI/Awich/Patrick Bartley
https://tokyo-jazz.com/