DISCOGRAPHIC
THE CHEMICAL BROTHERS
ケミカル・ブラザーズを知るための10枚
文/轟ひろみ

THE CHEMICAL BROTHERS 『Exit Planet Dust』 Junior Boy’s Own/Virgin(1995)
先行ヒット“Leave Home”や、シャーラタンズのティム・バージェスが歌う“Life Is Sweet”などで知られる初作。セカンド・サマー・オブ・ラヴからのレイヴ精神とブリット・ポップ時代の雰囲気をポップに繋いだという意味でも当時のリスナーにストライクだったのだろう。バレアリックな終曲でのべス・オートンも印象的。

THE CHEMICAL BROTHERS 『Dig Your Own Hole』 Freestyle Dust/Virgin(1997)
本作から怒濤の全英No.1アルバムが続いていくことに。ノエル・ギャラガーをフィーチャーした“Setting Sun”に、ソリッドな“Block Rockin’ Beats”という2曲の全英1位ヒットを生んだセカンド・アルバム。ネタはヒップホップの定番が数多く耳につくものの、ダイナミックな引用の手捌きそのものがロッキッシュに響いたか。

ふたたびノエル・ギャラガーを迎えた歌モノの“Let Forever Be”も用意しつつ、それよりも先にダイナミックな“Hey Boy Hey Girl”をシングル・カットした点に彼らの自信と気概を見る。バーナード・サムナーやボビー・ギレスピー、ホープ・サンドヴァルの参加も名前のデカさよりトランシーな素材感を重視して組み込んだような感じだ。

スクリーマデリカな色味のジャケからして、眩しい何かが脳に刺さる陶酔感の源泉は言わずもがな? スピリチュアルなアシッド・グルーヴの“It Began In Afrika”や“Star Guitar”など一気に眺望を広げたサウンドスケープも印象的で、本作の方向性が奏功したからこそケミカルは現在も進行形なのだ。リチャード・アシュクロフトが客演。

THE CHEMICAL BROTHERS 『Push The Button』 Freestyle Dust/Virgin(2005)
Q・ティップを迎えたヒット・チューン“Galvanize”を筆頭に、当時フレッシュだったブロック・パーティのケリー・オケレケ、マジック・ナンバーズ、アンナ・リン・ウィリアムスら気鋭の顔ぶれを多数招き、ヒップホップなど自分たちの多彩な側面を明快に切り取って提示したようなグラミー受賞作。診断メーカーのようなジャケは謎だ。

THE CHEMICAL BROTHERS 『We Are The Night』 Freestyle Dust/Virgin(2007)
ニューレイヴが元気な時代に投じられた6作目。前々作の延長線上にあるトランス的な意匠に立ち戻りつつ、クラクソンズとライトスピード・チャンピオンを招いた“All Rights Reversed”などのコラボもあるが、体温はやや低めな印象。ファーサイドのファットリップ、アリ・ラヴとの粘っこいトラックにはいつもと異なる印象もあり。

『Singles 93-03』に続く2枚目のベスト・アルバム。そこにもケイオスやフレーミング・リップスとの新曲があったが、こちらにも〈Electronic Battle Weapon〉流れの強靭なインスト“Midnight Madness”とスパンク・ロックを迎えた“Keep My Composure”が新曲として収録。時代の区切り的にも意味あるタイミングのベスト盤だ。

前作とベストを挿んで賑やかなコラボ・モードに一段落ついたのか、初めてゲストによるリード・ヴォーカルなし(コーラスはあり)でストイックに完成された野心的な一作。そのシンプルさゆえに根本的なケミカルらしさがダイレクトに伝わってくる印象で、この路線は現在にまで繋がっている感じだ。メロディックな“Swoon”が最高!

THE CHEMICAL BROTHERS 『Born In The Echoes』 Freestyle Dust/Virgin EMI/ユニバーサル(2015)
サントラ『Hanna』の制作やトムのソロ・リリースなどを経た意欲作。Q・ティップの登場に代表されるヒップホップ度の高さは『Push The Button』を思わせるものだが、気負いなくマイペースな雰囲気は、上昇期の勢いも常勝期の濃密さも乗り越えた境地を窺わせる。セイント・ヴィンセントやケイト・ル・ボン、ベックらが参加。

ゴドレイ&クレームをモチーフにしたジャケをいま見ると……と思えたりもする9作目。NENEやオーロラの参加もありつつ、固定ミュージシャンとのセッション的な作法がキーになった作り。ピーター・ブラウンの大ネタを用いたファンキーな“Got To Keep On”、往年のテクノやレイヴ時代に通じるようなトラックもあってプリミティヴさが光る。
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