秩父を拠点に活動するギタリスト・笹久保伸と、彼を中心とするアート運動〈秩父前衛派〉を軸に、同地で巻き起こりつつある新たな潮流に迫る連載〈秩父は燃えているか〉。企画を始めるまでの経緯を綴った前回の掲載から間を置かず、唐突に現地へ赴く機会が生まれた――今回は、第2回目にして早くもお届けすることになる現地レポート編。

 


 

笹久保は、今夏に3つの作品を発表した。音楽だけにとどまらず、映画、小説、演劇などさまざまなフィールドに及ぶ秩父前衛派の多面的な魅力を知るためには、そのいずれもが重要な作品だ。なかでも、近年の笹久保のアイデンティティーに関わるテーマ〈秩父の仕事歌〉と真正面から向き合ったアルバム『秩父遥拝』の記者会見が、秩父市役所で行われるというアナウンスがあった。これはと思い本人に連絡したところ、「せっかくなので秩父を案内しますよ」との返答が……前衛派のインスピレーションの源となっている土地を、本人たちのガイドで巡ることができる思わぬチャンスが転がり込んできた。
 


筆者の住む東京郊外から秩父までは約2時間の道のり。西武秩父駅の改札を出ると、左手にはピラミッドのようにそびえ立つ武甲山の姿が。かつて山岳信仰の対象でありながら、現在は採掘によって大きくその姿を変えてしまったこの山も、秩父前衛派にとっては非常に重要な場所だ。
 


駅から市役所までは歩いて5分ほど。秩父の歴史文化伝承館としても機能しており、2009年と2010年には笹久保と高橋悠治のコンサートが実施されている。会見はこの中にある記者クラブで行われた。

新聞系のメディアが多数詰めかけた会見では、笹久保が秩父の仕事歌へと向かうことになった経緯や、そこから『秩父遥拝』というアルバムが生まれるまでの過程や背景、そして彼がこの作品を通して訴えかけたいメッセ―ジなどが語られた。『秩父遥拝』には、高度経済成長の裏で滅びていった仕事歌を、同地の民俗学者・栃原嗣雄が録音/採集していた(ほぼ唯一の)資料をもとに、笹久保自身が歌い、新たなアレンジで演奏したものが収められている。秩父の仕事歌が音楽作品として正式に発表されたのは、今回が初めてのことだという。

「アーティストの表現方法の一つとして〈郷土文化〉を捉え、失われゆく文化をアートへと還元することにより、作品の中でそれらの文化を呼吸させ、輝かせたいと考えています」

「表向きに見える秩父の人々の生活文化、お祭りや観光などを第一フィールドの秩父であるとするなら、それらを超越した第二フィールドの秩父の姿を抉り出す、それが僕のアート活動です」

「民族資料館に眠る資料を、もう一度秩父の大地に還すこと。それがこの〈秩父遥拝〉というプロジェクトの本質的な目的であり、アーティストという立場からの郷土文化への挑戦でもあります」
 


こういった笹久保の言葉は、『秩父遥拝』のみならず、秩父前衛派という運動の本質も表現しているのではないだろうか。この日の会見に参加した音楽系メディアはMikikiだけだったが、それでも最後まで記者たちからの質問が相次いだのは、『秩父遥拝』が持つテーマの広さゆえだったのかもしれない。