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『REFLECTION』(2015年)

Mr.Children 『REFLECTION {Drip}』 トイズファクトリー(2015)

全23曲をUSBに詰め込んだ〈{Naked}〉、23曲から選りすぐりの14曲をCDに収録した〈{Drip}〉と2つの形態でリリースされた18枚目。発売前に本作に伴うツアーをスタートさせ、リリース日当日にツアーファイナルを迎えるという形式からもバンドの自信を感じさせる。プロデューサーとして小林が参加した楽曲も存在するが、主にバンドによるセルフプロデュースが中心(一部楽曲では外部アレンジャーも参加)。前作の迷いを払拭するかのように、バンドが現状持ちうる手札全てをさらけ出した力作となった。〈{Naked}〉をメインにその中身を覗くと、力強いバンドアンサンブルがアルバムの幕開けにふさわしい“fantasy”、ブラッド・ピットが出演した99年の名作を題材に自らに発破をかけるギターロック“FIGHT CLUB”、太宰治の小説を下地に壮大なストリングスを絡めたリズム歌謡“斜陽”など、序盤からバラエティーに富んでいる。“Melody”“運命”あたりのピュアな気持ちを閉じ込めたポップナンバーは風通しがよく、“WALTZ”“REM”では桜井のエゴが噴き出す。“Jewelry”ではモダンジャズに挑戦し、松任谷由実“中央フリーウェイ”をミスチル流に料理した“遠くへと”など、ロックバンドとしてのレパートリーの豊富さに驚きを隠せない。そうしたバラバラの個性を繋ぎ合わせる意味でも、初のセルフプロデュース曲となった泥臭いロックバラード“足音 〜Be Strong”、小林が参加しMr.Childrenの王道を貫いたポップチューン“幻聴”、“足音 〜Be Strong”の完成を経て再び息が吹き込まれたアンセム“Starting Over”の3曲が、23曲にもおよぶ大作の合間で強い輝きを放っている。本作は、最後に自分達のさらなる可能性を信じた“未完”を据えて完成する。 *小田

 

『重力と呼吸』(2018年)

Mr.Children 『重力と呼吸』 トイズファクトリー(2018)

今になれば最新作『miss you』へと続くバンドの新章、その序章と位置づけることができるアルバムだ。全曲がバンドのセルフプロデュースによるもので、つまりはメンバー4人の意向のみが作品に落とし込まれている。カウントとともに視界が一気に開ける“Your Song”で桜井はとにかく叫び、続く“海にて、心は裸になりたがる”ではこれまで封印してきたのではと思うほどバンドに馴染んだビートロックを披露。〈僕が僕であるため〉と尾崎豊にも近い孤独と哀愁を起伏の激しいメロディーに乗せて歌う“SINGLES”、大胆な転調とアレンジが繰り返される“addiction”、クイーン風のギターが炸裂するストーリーテリングな曲“day by day(愛犬クルの物語)”、相反する感情を1曲のエモーショナルなロックバラードへと昇華した“himawari”など、数々のトライ&エラーを経験したバンドによる最高到達点が記録されている。このころから、桜井を筆頭にバンドが年齢や老いというものを意識しはじめたように感じられ、外に向けてではなく、自分達の向けて音を鳴らしはじめる。その延長線上に次作『SOUNDTRACKS』と『miss you』が存在しているように思う。 *小田

 

『SOUNDTRACKS』(2020年)

Mr.Children 『SOUNDTRACKS』 トイズファクトリー(2020)

U2『All That You Can’t Leave Behind』(2000年)やサム・スミス『In The Lonely Hour』(2004年)などを手がけたスティーヴ・フィッツモーリスがプロデューサー兼エンジニアとして参加、全編海外レコーディングによって完成した20作目。『深海』以来となるアナログでのレコーディングを実施している。そもそも日本と海外では電圧などが違うため、あらゆる音の響きが異なる環境で、バンドは世界水準のノウハウをサウンドやアレンジに反映させている。具体的には“Brand new planet”のようなスケールの大きい楽曲から、パーカッションと多重コーラスが甘酸っぱい恋模様を彩るポップソング“turn over?”にいたるまで、曲の骨組みはMr.Childrenとしてのあるがままを維持しながら、骨自体の成分=サウンドとそれを覆う肉=アレンジがこれまでと大きく異なっている。リリックの面では、死に直結する老いを受け入れることで生きることの尊さに触れるバラード“Documentary film”、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」の主題歌であり、輪廻転生のように生まれ変わりながらも自らを肯定し続けることを歌った“Birthday”など、尺度や視点は変えながらも『重力と呼吸』から地続きのテーマも存在する。こうした様々な要素を包む本作の皮膚=アートワークを、常田大希(King Gnu/millennium parade)が主宰するクリエイティブチーム〈PERIMETRON〉に委ねた点も興味深い。多くのクリエイターやスタッフと制作した本作、その経験と反動が『miss you』へと繋がっていく。 *小田