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フォームから抜け出し自由に表現するのがソロピアノ最大の魅力

――壷阪さんも、FOTDに入られてからソロピアノ演奏に取り組むようになったのは、小曽根さんからの影響ですか?

「影響というより、きっかけが小曽根さんでした。FOTDに入って数ヶ月した時に、急に〈健登、ソロピアノやってみませんか?〉とメールが来まして」

――その時はどう思われましたか?

「急な話で、びっくりしました。僕はその時ソロピアノは弾いたこともなかったので、一度はお断りしたんです。

ただ小曽根さんはその後も〈健登、やった方がいい。絶対にやった方がいいよ〉と何度も背中を押してくれました。そうして話していく中で、自分の中でも挑戦したい思いへと変わっていきました。

そうして録音したのが自分のオリジナル“With Time”“Solace”と、スタンダードの“Good Morning Heartache”の3曲を収録した『KENTO』というEP作品です」

壷阪健登 『KENTO』 From OZONE till Dawn(2022)

――先ほど、それまでソロピアノ演奏をしたことがなかったとおっしゃいましたが、演奏するに当たって参考にしたピアニストはいますか?

「ビル・エヴァンス、キース・ジャレット、ダラー・ブランド、アート・テイタム、ポール・ブレイ、エグベルト・ジスモンチ……あらゆるスタイルのピアニストのソロ作品は再度聴きなおしてみました。もちろんクラシック作品も。とにかく自分が吸収できるものは、ぜんぶ吸収してみようという気持ちです。

ただ、ソロピアノでライブを重ねていくうちに、自分の中の気持ちの変化を感じました」

――どのような変化でしょうか?

「実際の演奏では、まず自分の心と向き合って、そこから湧き上がってくるものをストレートに出すことの方が大切なのではないかと思うようになってきました。たとえ、演奏している曲のフォームが決まっていても、その時感じた気持ちに従って、そのフォームから抜け出してみる。それが自由に行なえるのがソロピアノの最大の魅力だと思います。もちろんその時は大失敗に終わる可能性も大いにあるんですけれど、それでも自分の気持ちに向き合うことが一番大切なのではないかと。今やっている練習の中でも、曲の中にどれだけのものを書き込み、そして演奏の中でどれだけ自由になっていくかということを考えながら取り組んでいます」

――そうしたソロピアノの演奏活動ですが、今年7月にはスペインのサン・セバスティアン国際ジャズ・フェスティバルでも演奏されたそうですね。

「サン・セバスティアンへの出演は、金沢JAZZ STREETからいただいた話でした。金沢ジャズはサン・セバスティアン国際ジャズ祭と友好関係にあって、僕とハクエイ・キムさんを推薦してくださったんです。オファーの段階ではまだソロピアノは始めたばかりだったのでそのタイミングに驚きましたが、何となく、自分がソロピアノ演奏への流れに導かれているようにも感じました。小曽根さんに出演決定の話を伝えたら、〈ほらね?〉と言われてしまいました(笑)」

 

このコンサートは変化が必要な時期に迎える大きな機会

――そして11月18日(土)には、銀座ヤマハホールでソロピアノコンサート〈Departure〉を開催なさいます。こちらへの抱負をお聞かせいただけますか?

「これは僕にとってのチャレンジのひとつだと思っています」

――とおっしゃいますと?

「このヤマハホールの素晴らしい音響の中で、コンサートグランドピアノCFXを演奏することは、自分にとって大きなチャレンジです。貴重な経験で、とてもワクワクしていることでもあります。

こちらのホールでは一度、今年の1月に〈齊藤健太 × 馬場智章 Special Saxophone Night〉というコンサートに出演し、このホールの持つ響きとピアノの素晴らしさにとても感動しました。それと同時に、ここでソロピアノを演奏するには演奏に対するスケール感としっかりとしたピアノの演奏技術が必要になってくるなとも思いました。

CFXは、豊かな響きを持つだけでなく、ジャズを弾いてもキレの良い音で応えてくれる楽器です。ですから、それを鳴らし切るだけのイマジネーションとテクニックが大事になってくるのだと実感しています。ピアノの音のひとつひとつをホールの隅にまで届けるようなイメージで練習に取り組んでいます。そして、今回はそれを自分の音楽で挑戦できることを本当に楽しみにしております」

――今、〈新しい自分〉という表現をされましたが、その意味合いが今回のコンサートタイトル〈Departure〉に込められているということなのでしょうか?

「この数年間、活動場面が増えるにつれて演奏環境も変化してきました。そうした中で、今まで自分がやってきたことや、考えてきたこと、意識してきたことを変える必要があることに気付かされるようになってきました。

7月のサン・セバスティアンでは、言語の違う国に行って、お客様の前で自分の音楽を演奏できることの喜びを感じていました。帰りの機内では、こんなに素晴らしい経験ができるのなら、どんな苦労もいとわずに進んでしていこうと思えました。

今、自分の変化が必要になっているこの時期にコンサートを迎えられることは自分にとっても大きな機会で、タイトルの〈Departure〉という言葉にもその気持ちが表れています」

――最後に、演奏予定曲を少し教えていただけますか?

「僕のEP『KENTO』の収録曲や、現在ヤマハ銀座店2FにあるカフェラウンジNOTES BY YAMAHAのReal Sound Viewingで公開されている僕のトリオ演奏のソロピアノバージョンを中心にお届けする予定です。その他にも、今回のコンサートが初演となる新曲を入れようと思っています。その中には少しインプロビゼーション色の強い楽曲も入ってくると思います」

 


LIVE INFORMATION
From OZONE till Dawn presents:
壷阪健登 ソロ・ピアノ・コンサート “Departure”

2023年11月18日(土)東京・銀座 ヤマハホール
開場/開演:16:30/17:00
出演者:壷阪健登(ピアノ)
料金:4,000円(税込/全席指定)
主催:ヤマハ株式会社ヤマハホール

■注意事項
※都合により出演者が変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください
※コンサート会場への未就学児のご入場はご遠慮いただいております
※チケット料金には消費税が含まれております

■チケット情報
チケットぴあ
WEBからのお申し込み ※座席選択可能
・Pコード:249-626
・発売日:2023年7月29日(土)
座席種別:指定席

https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza/hall/event/detail?id=4167

 


PROFILE: 壷阪健登
神奈川県横浜市出身。ジャズピアノを板橋文夫、大西順子、作曲をヴァディム・ネセロフスキー、テレンス・ブランチャードに師事。慶應義塾大学を卒業後に渡米。2017年、オーディションを経てダニーロ・ペレスが音楽監督を務める音楽家育成コースの 〈Berklee Global Jazz Institute〉に選抜される。2019年にバークリー音楽大学を首席卒業。ライブ、レコーディングに参加する他、他アーティストへの楽曲、アレンジ提供も行なう。ジャズピアニストの小曽根真と俳優の神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト〈From OZONE till Dawn〉のメンバーとしても活動している。これまでにパキート・デリベラ、ミゲル・ゼノン、ジョン・パティトゥッチ、カトリーヌ・リュッセルらと共演。2022年に石川紅奈とユニット〈soraya〉を結成し、同年4月にファーストシングル『ひとり/ちいさくさよならを』をリリース。2023年、スペインのサン・セバスティアン国際ジャズ・フェスティバルにてピアノソロで出演。

From OZONE till Dawnとは
コロナ禍の中、ジャズピアニストの小曽根真が若い才能の紹介と躍進のために始めたプロジェクト。3年目に入り、いよいよ進化した精鋭達が世界へと羽ばたきます。抜群の才能と独自の音楽性を兼ね備え、謙虚に真正面から音楽と向き合うアーティストたちにぜひご注目ください。