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本気のノーウェイヴ志向とキュートなボーカルのバランス

現在の邦楽ポップスシーンにおいて〈80年代色〉はもはや定番ではありますが、昨今はその多くがシティポップテイストで占められているように思えます。私的にも決して嫌いではないですが、さすがにやや食傷気味なことは否めません。そんな折に、同じ80sリバイバルながらシティポップでも(これまた定石の)テクノポップでもなく、本気のノーウェイヴサウンドをぶちかましたAIR-CON BOOM BOOM ONESANは、もうそれだけでなんとも頼もしく思えるのです。もっとも、この大胆なコンセプトはむろん2000年生まれのこんねきによる独案ではなく、作編曲からプロデュースまでを務めたCMJK(元・電気グルーヴ~Cutemen)の卓抜なアイデアであることは明らかですけど。

とはいいつつも、このユニットの最大の個性はこんねきが担っていることもまた確かでしょう。彼女の素っ頓狂なボーカルは、『No New York』 にも参加したテーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスのリーダーで、ZEでもソロ作をリリースしているNYの地下女帝=リディア・ランチが一つの手本になっているような気がします。

でもこんねきがいくらエキセントリックに激唱しても、やや幼い地声のためにどうしてもキュートでライトに聴こえちゃうんですが、むしろそれがいい。ともすればアングラ臭くてエクストリームな内向音楽になりかねないところを、彼女のガーリーで抜けの良い歌唱が前面に出ることでしっかりポップのフィールドへと着地しているのです。この絶妙なバランス感覚には唸るしかありません。

 

第2弾“ソー”は明瞭な日本語詞のノーウェイヴ歌謡

10月には第2弾のデジタルシングル“ソー”がドロップされたんですが、これがよりいっそうノーウェイヴマナーを突き詰めた激アグレッシブチューンだったので拍手喝采です。“っぽ”と同様、日本語による歌詞はこんねき自身が手掛けていますが、前曲ではなんだか英語のようなニュアンスで歌っているため意味不明だったものが(それはそれで面白い)、“ソー”では歌詞の内容が明瞭に聞き取れるのがポイント高し。ノーウェイヴのドメスティックな大衆化(つまりノーウェイヴ歌謡)には日本語詞は必須だと思うので。

AIR-CON BOOM BOOM ONESAN 『ソー』 22nd Century Tunes(2023)

ちなみにカップリングはストロベリー・スウィッチブレイドのエレポップ名曲“Since Yesterday”のカバーで、ほぼ原曲に沿ったアレンジで可愛いらしく歌っています。その全然ノーウェイヴじゃない健気な感じが逆に笑えてしまうのは僕の心が濁っているからかもしれません。

脱稿直前に嬉しすぎるニュースが飛び込んできました。なんと2月21日に待望のフルアルバムがリリースされるとのこと。どうやらノーウェイブのみならず相当に雑多な音楽性を持つ作品に仕上がっているようなので、これはもう刮目して待つべしです。

 


PROFILE: 北爪啓之
72年生まれ。99年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈っくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。