
──電磁波をテーマにした今回の展示作品、真鍋大度との《Sensing Streams》がまさにそうですね。
「人間の耳に聴こえる音というのは、ごく限定された周波数帯域でしかなく、当然、人間に聴こえないだけで、振動現象としての音自体は、その帯域の外にも存在している。坂本さんは人間中心的ではない、人間のためだけではない音楽のあり方に関心を持たれていました」
──坂本さんは理論的なものが感覚的なものに先立っているのか、それともその逆で感覚的なものが先立っているのか、どちらに感じましたか?
「坂本さんが、楽音を使わない音の作品を作っても、音楽に感じさせる、こちらが音楽のように聴いてしまう、という感じがありました。そういう意味で、音楽家なんだなと思いました」
──今回展示されているAlva Notoとの映像では、世界的な演奏家集団アンサンブル・モデルンに対して指示を与える姿が映っています。
「坂本さんはすごくエネルギッシュに創造的なアイディアを提案し、Alva Noto(カールステン・ニコライ)は、その間を取り持ち、アイディアを具体化しようとしている、そんな姿ですね」

写真右:李禹煥《遥かなるサウンド》 2022年
──李禹煥による『12』のジャケットの原画を展示した狙いとは?
「坂本さんは、《IS YOUR TIME》でも使用された、被災したピアノを見て、ピアノという近代的な楽器が、その機能を失って、〈もの〉へと還っていった、と捉えました。李さんは、1960年台末から日本の現代美術における〈もの派〉という動向の中心的美術家です。作ることの否定を唱え、世界のあるがままの鮮やかさとの出会いにおいて作品を提示しました。世界がすでに存在しているのに、人間が素材を変形し何かを新たに作ってみせることを疑ったのです。李さんの作品に学生時代から興味を持っていた坂本さんは、晩年交友関係を深めていきました。晩年の坂本さんの思考は、李さんと非常に似通ったものがあります」
──今回の展示にあたって心がけたことなどありますか。
「こうした展示では、それぞれの部屋から発せられる音が、どうしても混じり合ってしまう。それを可能な限り、干渉を軽減するように考えました。あるいは音同士が気にならない、それぞれの音の鳴るタイミングはあるのか、とか、異なる部屋のピアノの音が混ざらないようにインターミッションなどを設けて、観客を展示室から展示室へ誘導するようにしています。一方、ノイズやピアノの音が重なることで、新しい発見もあるかもしれない。たんに音を分ければいいというだけではなく、いろいろなことを試してみましたね」
常に時代を先駆けていた存在の追悼は、過去の偉業を並べるだけでは物足りない。坂本龍一は 晩年に至るまで、音の拡張について思考していた。
また、未来に向けてその可能性を問うていた。
彼のこの二重の〈開かれ〉と並走した展示は、今までに類を見ない追悼として、来る者の脳裏に刻まれることだろう。
EHIBITION INFORMATION
Tribute to RYUICHI SAKAMOTO Music/Media/Art
坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア

写真手前:毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)2017/23年
2023年12月16日(土)~2024年3月10日(日)東京・西新宿 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ギャラリーA
開館時間:11:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
参加アーティスト:坂本龍一/真鍋大度/ストレンジループ・スタジオ/高谷史郎/ダムタイプ/カールステン・ニコライ/404.zero/カイル・マクドナルド/毛利悠子/ライゾマティクス/李禹煥 ほか
https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2023/tribute-to-ryuichi-sakamoto-music-art-media/