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オーガニックでアコースティックな生の力を持つ音楽を目指した

――新作はニンジャ・チューンからから英デッカへ移籍してのアルバムとなります。移籍したことで心境や制作面などの変化はありましたか?

「さっき〈新たなチャプター〉って言ったけど、レーベルを移って、子供が生まれて、自分のステージを変えたいと思ったんだ。新しいバンドとともにね。

自分が作りたい音楽は、広がりのある、ちょっとクラシック音楽っぽい雰囲気のもの。その意味でデッカはクラシック音楽や古典的なジャズの歴史があるから、そんなレガシーを持つレーベルでやることが自分にとってもタイミング的にちょうどよかった」

――プロデュースはご自身ですが、今回は録音を自宅ではなくロンドンのRAKスタジオで行ったそうですね。1曲目の“Flowers”から生のドラムが際立っていて、途中からストリングスが被さって壮大な雰囲気になります。〈アルバムでは初めてとなるバンドとの共同作業〉を謳いながらミニマルで密室感のある仕上がりだった前作とも違っていて、これまでのアルバムの中でも、とりわけオーガニックでアコースティックな作品だなという印象を受けました。

「それは最初からすごく意識していて、スタジオにミュージシャンたちを入れて作るアルバム、まさにオーガニックでアコースティックな生のエネルギーを持つ音楽を作ることを目指していた。確かに過去の作品ではコンピューターで作るようなミニマルな音楽をやっていたけれど、今回はそうしたものではなく、生のミュージシャンたちが出してる音だと思えるようなものを作りたかった。オーケストラも含めて、デジタルではなくアコースティックな音にこだわったんだよね」

――その意味で、大勢の演奏家がいるロンドンは恵まれていますよね。

「それは大きい。これまでの自分の作品もそうだけど、最初はひとりでやっていたのが(オーストラリアから)ロンドンに移ってきてからは、それこそジャズにヒップホップ、エレクトロと、いろんなジャンルの人とコラボレーションをするようになって人脈が広がった。

あと、ロンドンということでは天気。いつも雨が降っていて暗いので、自分の音楽もちょっとダークになった感じはあるかな」

――演奏には前作のバンドメンバーの一部やオスカー・ジェロームを含む腕利きたちが参加していますが、オーケストラに加えてゴスペル風のクワイアも目立ちます。それも含めると、レコーディングはかなりの大所帯だったのではないかと思うのですが、実際はどんな感じだったのでしょう?

「例えば“Friend Or Foe”はホーンが7人、ストリングスが20人、クワイアが10人で、曲によっては50人近くで録音したものもある。自分ひとりのプロデュースでまとめるのは大変だったけどね。それまでだったらコンピューターを使ってやっていたことを本物のミュージシャンたちとやるわけだから。

現場ではすぐにフィードバックがあって緊張感もある。でも、スタジオの中で対面して人と喋りながら制作するのはとても楽しかった」

――下世話な質問ですが、それだけ大勢のミュージシャンを使って制作できたのは、潤沢な予算があるメジャーのデッカならではだったりするのでしょうか?

「それはもちろんある(笑)。これまでも同じような作品を作りたかったけど、それを実現できる予算がなかった。死ぬまでに1枚、徹底的に自分の野心や野望を満たすようなアルバムを作りたいと思っていたんだ。

70年代のスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールドなんかもそうだけど、彼らはオーケストラやクワイアを使ってレコードを作っていたわけで、そうしたものを作れるだけの自由をデッカが与えてくれたんだ」