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“Paradise”と“Parodies”、セルフリメイク版の3曲から推理

じつはそのヒントのようなものが数年後に発売されたアルバム『K2C』(1991年)にありました。同作には“Paradise”のセルフリメイクが収録されているのですが、シングルのバージョンとは歌詞もアレンジも大きく異なっています。というのも元々はこのセルフリメイク版が本来の歌詞で、シングル発売時に制作サイドからのダメ出しで改変されたという経緯があったようなのです。

米米CLUB 『K2C』 CBS/ソニー(1991)

上記のエピソードをもとに推察してみましょう。

1. シングル“Paradise”はバンドの意に沿わない形でリリースされた
2. それに対する抵抗策または妥協案として“Parodies”が生まれた
3. それが原因で『SINGLES』には“Paradise”ではなくその自虐ネタとも取れる“Parodies”をあえて収録した
4. メジャーバンドとしての地位が確立した時期の『K2C』でようやく本来のスタイルで再録音を果たした

あくまで憶測ではありますが、もしこれが事実に近いとすれば米米CLUBは相当に気骨のあるバンドだと言えるかもしれません。ともあれ、全7曲中シングルA面は2曲だけで、当時の最新シングルA面曲を収録していないCDを〈ベストアルバム〉と紹介しているウィキペディアの解説はミスリードのように思えます。

では『SINGLES』の帯にはそもそも何と書かれていたのかというと、単に〈シングルコレクション〉としか表記されていません。それはもちろん偽りないのですが、シングルを4枚しか発表していないバンドが〈シングルコレクション〉をリリースするというのも少しおかしな気もします。

ただこれに関しては、レコードからCDへの移行期だった(国内では1986年にCDがLPの生産枚数を上回った)ことから、先を見越して未CD化曲を1枚のアルバムにまとめた、と考えるのが当たらずといえども遠からずだと思います。なにしろ米米CLUBはCD推進の総本山でもあるCBSソニーの所属。実際のところ翌年からはシングルも8センチCDとしてリリースされることになったので。

ここまでに挙げた理由から『SINGLES』は〈変則的なシングルコレクション〉と呼ぶのが一番しっかりくる気がします。

 

シングルB面に甘んじた珠玉の夏曲“ヴィーナス”の謎

〈変則的なシングルコレクション〉といってもダメコンピというわけではありません。CDでは本作でしか聴くことのできない曲が多いことに加え、シングルゆえ押しなべて高クオリティー。なかでも“ヴィーナス”は珠玉の逸品と言ってもおかしくない傑作ナンバーなのですが、これがまたちょっと不思議な曲なのです。

“ヴィーナス”は12インチシングルのB面曲で、A面の“加油”が豪快に黒光りする長尺ファンクなのに対して、まるで正反対の軽快に疾走するキャッチーなサマーチューン(なので『SINGLES』を夏に聴きたくなる)。どことなくカルチャー・クラブやヘアカット100、ABC辺りのUKニューウェーブにも通じる曲調ながら、しっかりとドメスティックなバンドサウンドに仕立てられているのも当時の米米CLUBらしく、もしもA面だったら“Paradise”以上のヒットを記録したのではないかとさえ妄想してしまいます。なぜこれほどポップな曲がB面に甘んじたのか。

〈それってお前の主観だろ?〉とツッコまれるかもしれませんが、それがそうとも言い切れない興味深い事例があるのです。あまり知られていませんが、実は1986年にA面が“ヴィーナス”、B面が“Shake Hip!”というプロモーション用の非売品シングルが制作されているのです。このプロモ盤が12インチシングル“加油”用だったのか、ニューアルバム『E・B・I・S』用だったのか、はたまた米米CLUBというバンド自体の売り込み用だったのかはわかりませんが(『E・B・I・S』には両曲とも未収録)、販促盤とはいえシングルA面になっていたという事実は注目に値します。

しかもそれだけではありません、なんと“ヴィーナス”はPVまで存在するのです。常識的に考えてデビューまもない新人バンドのB面曲でPVを作るというのはそうそうに有り得ない話でしょう。

以上のことから推測すると、当初“ヴィーナス”は“Shake Hip!”に続く(または匹敵する)ポテンシャルを持ったシングル候補として位置付けてられていた、と考えるのが妥当ではないでしょうか。しかし、それが何らかの事情によって実現しなかった。

人と同じように楽曲にも運命というものがあるのだとすれば、“ヴィーナス”は不遇の運命を辿ったナンバーではないかと勝手に思ってしまうのです。その後のベスト盤などで顧みられることもなく、某サイトの米米CLUB人気曲投票でも100位内にすら入っていない状況が僕には不憫でなりません。無茶苦茶いい曲なのに(声を大にして)!