©Breno Rotatori

トリスターノ自身のレーベル〈intothefuture〉第2弾は、“フランス組曲”!

 自身のレーベル〈intothefuture〉を立ち上げたフランチェスコ・トリスターノ。録音作品、機材の選択、リリースのタイミングなど全てを自分で決定できるようになったと語る。長年の夢だったバッハ全集の実現が現実味を帯びてきた。ジャケットには、“フランス組曲”をイメージした写真が使用され、その音の世界観には、どこかパーソナルな感触が広がる。渦中の彼にインタヴューを行った。

FRANCESCO TRISTANO 『J.S.バッハ:フランス組曲(全6曲)<日本限定発売盤>』 intothefuture/キングインターナショナル(2024)

 

――まずご自身の中で、エレクトロニック・ミュージックとバッハの関係性とはどのようなものなのでしょう。

「バッハを勉強したことで、エレクトロニック・ミュージックとの共通点も見出せるようになり、逆もまた真になりました。エレクトロニック・ミュージックの音色のテクスチャーやリズム感、グルーヴ感は自分がバッハ演奏をする上で重要なものですが、さらに構造も挙げたいですね。例えばミニマリズム的な構造は、バッハのプレリュードにも見ることができます」

――“フランス組曲”の魅力とはなんでしょうか?。

「10歳ごろから演奏してきた、自分にとって身近で、親密な魅力ある作品です。特に1番と2番は一般的には演奏される機会が少ないのですが、バッハ作品の中でも特に美しいと感じますね。バッハの魅力を再発見するきっかけになりました」

――今作の演奏アプローチについて。

「バッハ演奏では〈レス・イズ・モア〉の美学が重要だと思います。大きな音量を出すために、あるいは音にレガートをかけるためにペダルを踏むことはしませんでした。ただ、レゾナンスをうまく出すためにミドル・ペダルをほんの少し使用しました。左右の平衡、カデンツァにおける装飾音や、楽章間のタイミングなどは、録音物として長い時間に耐えうるようなものを目指しました」

――ライナーノーツで指摘された、“フランス組曲”の調性について。

「バッハ作品には調性の論理があり、それを探求することは本当に楽しいですね。“フランス組曲”は、ニ短調、ハ短調、ロ短調、変ホ長調、ト長調、ホ長調と続く、大変珍しいものです。当時の調律によるロ短調は、バッハにとって特別な調だったと思うので、その重要性も意識しながら演奏しています。この調性の流れはバッハ作品の中でも奇妙なのですが、ボードレールの言葉を借りるなら〈美は奇妙なもの〉なのです。わたしの新作で、“フランス組曲”に込められた多彩な情趣を感じていただけたら幸いです」