坂本龍一キュレーションのグレン・グールド生誕85周年記念イヴェントの映像からみえてくるもの

 グレン・グールドという神話的な音楽家を解体し再解釈するための場として坂本龍一がキュレーションしたイヴェントが『GLENN GOULD GATHERING』だ。

ALVA NOTO, NILO, CHRISTIAN FENNESZ, FRANCESCO TRISTANO, 坂本龍一 『GLENN GOULD GATHERING』 commmons(2019)

 坂本はグールドと向き合うために、世界のエレクトロニカ・シーンをリードし続けてきたアルヴァ・ノトとクリスチャン・フェネス、そして今年の5月に新作『Tokyo Stories』をリリースしたルクセンブルクの気鋭のピアニスト、フランチェスコ・トリスターノを召喚した。彼らの演奏は〈Disc 1〉に収録されている。様々な表情を見せながら淡々と空間に音を刻んでゆく坂本の静謐なピアノから演奏はスタートし、そこに途中からクリスチャン・フェネスのノイズが介入し、坂本の旋律もそれに呼応するかのように動きを見せる。美しさと凶暴さを兼ね備えたフェネスのエレキギターが放つノイズに的確にリアクションしてゆく坂本のしなやかさは、クラシック~現代音楽と電子音楽の狭間を移ろい続けた彼ならではのものだ。それは、続くアルヴァ・ノトとのコラボレーションでも堪能できる。繊細な手つきで空間に電子音を編み上げてゆくアルヴァ・ノトの圧倒的なサウンドスケープに、坂本は途中からプリペアド・ピアノの金属的な響きで対抗してみせる。そして次は、ピアノと電子音が紡ぎ出す様々な音色が作り出した濃密な空気に光を差し込むように、俊英フランチェスコ・トリスターノがクリアで精密なピアノを奏でる。確かな技術に裏打ちされた緩急自在な演奏は、この若きピアニストの存在感をはっきりと示すものだ。終盤の4人のコラボレーション(坂本はシンセサイザーを担当)では、世代とジャンルを越えた活動を展開してきた彼らだからこそ可能な感動的なフィナーレを飾った。

 最後になってしまったが、〈Disc 2〉に収録されているローン・トーク(カナダ放送協会/録音エンジニア〉と、ヴァーン・エドクィスト(調律師〉のグールドについてのインタヴューはグールドの人となりや音楽家としてのこだわりが浮き彫りになる必見の映像だ。