Photo by Aymeric Giraudel

バレエ・リュスへのオマージュ、そしてアリス=紗良・オットとのコラボレイション

 クラシックとテクノを自在に横断する現代風な感性で強い人気を得ているトリスターノ。この6月にも再来日し、ソロ・リサイタルに加え、アリス=紗良・オットとのデュオ・リサイタルを行う予定だ。それに合わせ、このコンビでのアルバムも同時リリースされる。タイトルは『スキャンダル』。その収録曲目を見れば、これらがバレエ、それも20世紀初頭を席巻したディアギレフと、彼が率いたバレエ・リュスへのオマージュだと一目瞭然だ。「タイトルは、ディアギレフが委嘱したいくつかの作品、たとえば“牧神の午後”や“春の祭典”の初演での観客の共通したリアクションを評した当時の言葉から引用しています」

アリス=紗良・オット, FRANCESCO TRISTANO 『スキャンダル』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2014)

 そもそもアリスとの共演のきっかけは? 「3、4年程前に友達になり、彼女のソロ・アルバムにゲスト出演しないかということになったのです。最初はバッハの協奏曲と言っていたのですけれども、アルバムを1枚作っちゃいたいよねと盛り上がり、こうなりました」

 トリスターノはバッハとともに、ストラヴィンスキー好きとしても知られている。ストラヴィンスキーの何が彼を惹き付けるのか。「彼の音楽すべてを好きというわけではありませんよ。新古典主義に走り始めた時期の作品は、どうも感覚的にわからない。好きなのは、彼のロシア的なフィーリングもですが、とにかくそのリズム感。僕は元々ドラマーになりたかったくらいですから、打楽器的な要素というのはとても重要なんです。バッハでも、組曲やパルティータを演奏するには、やはりリズムがポイントです。機械のように音楽の底にずっと流れている無窮動的感覚というのが本当に好きなのです。20世紀で特別な曲をひとつだけと聞かれたら、“春の祭典”ですね」

 このアルバムには、トリスターノが昨年8月に書いた自作“ソフト・シェル・グルーヴ”も加えられている。「ディアギレフという人は、新しい音楽を続々と委嘱したパイオニアでもあります。ですから彼へのトリビュートに、最新の音楽を入れることは不可欠だと考えたのです」

 アルバムと公演の双方で聴かせる2人のケミカルがいかなるものか、とても楽しみだ。「いわゆる〈デュオ〉ではありません。デュオというのは2人の違いをできるだけ消して、統一されたひとつのものを作るのですけれども、僕らの場合は、むしろ互いの長所を活かすという方法を志向しています。たとえば、彼女はスタインウェイで、僕はヤマハを弾くことで、音の違いも最大限に引き出そうとしています。ですから、2人の異なった個性を持つピアニストの会話、コラボレイションという風にお聴きいただけたらと思います」