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ニューウェイブにも受け継がれた異端文学

再び話を音楽へと戻すと、幻想文学/異端文学の素養を最も直截的に反映していた1970年代のアーティストは間違いなく佐井好子でしょう。江戸川乱歩、久生十蘭、谷崎潤一郎などの影響を公言する彼女の耽美な詞世界は、いまだ時代を越えて妖しい燐光を放ち続けています。

とりわけ夢野久作の奇書「ドグラ・マグラ」に着想を得たアルバム『胎児の夢』(1977年)は、胎内回帰や輪廻転生を想起させる言葉が随所に揺曳しつつ、全体がまるで一つの幻想絵巻のように共鳴する傑作。彼女に関しては連載第2回に詳しいのでぜひそちらもご覧ください。

夢野久作 『ドグラ・マグラ 上』 KADOKAWA(1976)

夢野久作 『ドグラ・マグラ 下』 KADOKAWA(1976)

佐井好子 『胎児の夢』 BLOW UP(1977)

ロックにおける異端文学嗜好は、1980年代のニューウェイブ世代になるとさらに表層化してきます。これは先述のブーム時に思春期を過ごした若者たちが、時を経て音楽による創作活動を始めたということが一つの理由かもしれません。

日本初のインディーズムーブメント〈東京ロッカーズ〉の仕掛け人でもあるS-KENのデビューアルバム『魔都』(1981年)は、都市やスパイなどをキーワードに据えていることからも、戦前の帝都東京を巨大迷宮の如く描いた久生十蘭の同名小説を彷彿とさせます。

S-KEN 『魔都(MATO)』 コロムビア(1981)

太田蛍一『太田蛍一の人外大魔境』と小栗虫太郎「人外魔境」(北爪私物)

ゲルニカのメンバーだった太田蛍一のソロアルバム『太田蛍一の人外大魔境』(1983年)は、小栗虫太郎の秘境探検シリーズ「人外魔境」へのオマージュが炸裂した怪作です。インナーには虫太郎への熱烈な憧憬が迸る文章と共に虫太郎のコスプレをした太田の写真まで掲載されているばかりか、細野晴臣や鈴木慶一、巻上公一らゲストにまで秘境チックな珍妙衣装を着せた写真を載せています。さらに古い文庫を模したような付録読本までつける徹底ぶりで、音楽だけでなくアートワークでも文学を体現した稀有な1枚でしょう。

余談ながら小栗虫太郎の代表作「黒死館殺人事件」は、夢野久作の「ドグラ・マグラ」、中井英夫の「虚無への供物」と共に日本の〈三大奇書〉として有名です。どれも長大かつ難解な内容のために途中で挫折する読者が多いことでも知られていますが、私感では「黒死館殺人事件」がぶっちぎりに難儀で、最後までわけのわからない怪しい百科事典でも読んでいるような気分でした。勇気のある方は挑戦してみてください。

その太田蛍一とはゲルニカの僚友でもあった戸川純が結成したヤプーズは、三島由紀夫や澁澤龍彦も絶賛した沼正三のSF/SM奇想小説「家畜人ヤプー」からバンド名を拝借しているうえに、“労働慰安唱歌”では石川啄木の「一握の砂」からの〈働けど働けど〉を歌詞に引用しています。

ヤプーズ 『ヤプーズ計画』 Baidis/テイチク(1987)

 

さて、前編はここまで。後編では主に1980年代の松本隆とメジャーシーン、ロックと江戸川乱歩、1990年代のはっぴいえんどチルドレン、可能ならば近年のアーティストなどについて触れてみようと思います。

 


PROFILE: 北爪啓之
1972年生まれ。1999年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈っくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。