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ドナートの曲を〈解体〉して引き出した新たな魅力

レイラが言うように、ドナートの曲はこれまで無数の音楽家によってレコーディングされており、その意味で新鮮さをもたらすことは難題であり、挑戦しがいがあったのではないかと推測される。そのため、2人は「ドナートの作品をアレンジやコンセプトの面で〈解体〉していくようにアプローチ」した、とレイラは言う。「多くの曲は文字どおり裏返すような作業となりましたが、ドナートもきっと気に入ってくれただろうと思います」。

2人のシンプルで親密な演奏と再解釈によって〈解体〉されることで、ドナートの曲は和声と旋律が剥き出しにされ、慈愛や絶妙なメランコリアに彩られた奥深い世界があらわになっている(実際、本作では、ボサノバなどのリズムはほとんど採用されていない)。このアルバムは、ドナートの音楽の新しい解釈であり、彼への優しく美しいトリビュートであり、また扉を開いて新たな聴き手を呼び込むためのガイドでもある。

『Donato』では、クラシック的な素養を感じさせつつ自由なヒカルドのピアノも、ドナートの曲の空間性を拡張しリズムとメロディを彩るジャキスのチェロも魅力的だ。ピアノとチェロの絡まり合いは、室内楽的な優美な喜びに満ちている。そして、もちろん印象的なのは、レイラの歌である。20代の頃と比べて、年を重ねたことで滋味を増した彼女の歌には、その響きの奥にブラジル音楽の歴史の深さを伝えるような説得力がある。“Verbos Do Amor”と“Naturalmente”でヒカルドが下から支えるように重ねる声も、彼女の歌の深みを際立たせている。

 

ジルベルト・ジルが歌詞を書いた“Lugar Comum”の再解釈

上で触れた“Lugar Comum”は、ちょうど来日公演が話題のジルベルト・ジルが歌詞を書いた曲で、彼が1974年のライブアルバム『Ao Vivo』で歌っているほか、ドナートの同名アルバム(1975年)にも収録されている。さらに、今年亡くなったセルジオ・メンデスが『Encanto』(2008年)でカバーしており、DREAMS COME TRUEとの日本語バージョンもある。また、パウラ・モレレンバウム(ジャキスの妻)によるドナートの名曲集『Água』(2011年)でも聴ける名曲だ。

GILBERTO GIL 『Ao Vivo』 Philips(1974)

JOÃO DONATO 『Lugar Comum』 Philips(1975)

SERGIO MENDES 『Encanto』 Concord(2008)

PAULA MORELENBAUM, JOÃO DONATO 『Água』 Biscoit Fino(2011)

曲名は、〈ありふれた場所〉という意味。海辺の光景を詩的に浮かび上がらせるジルベルト・ジルの歌詞も見事な曲だ。

バセラールは、「最初にレコーディングしたこの曲でアルバムの美学が打ち立てられました。ボーカルとピアノだけの一発録りで3テイク録ったのですが、レイラの歌はとても力強く感動的でした」とコメントしている。2人の演奏は、過去の録音のどれともちがった深みを湛えており、歌詞の内容に沿った歩くリズムと波の満ち引きを想起させるビートが歌とピアノから立ち上がってくる様が美しい。