ドラマ主題歌でありながら生身の水谷豊が透けてみえる
とにかく主演作が途絶えない人気者だった水谷は、1980年7月から「熱中時代・教師編」第2シリーズに出演。ここでは、いくつものシングル曲で作詞を手掛けている松本隆が提供した“やさしさ紙芝居”(1980年)を歌っている。印象的なポイントのひとつに、イントロに登場するドラマの主人公、北野広大を彷彿とさせるセリフ回しがある。萩原健一の楽曲に客演した“兄貴のブギ”(1975年)やサードシングル“表参道軟派ストリート”(1978年)などセリフ使いが印象的な曲はこれまでにもいろいろあったが、楽曲が持つ世界観との融和性という点ではこれがいちばんではないかと思う。
注目すべきは、歌詞が訴えかける信条や哲学が隅々まで息づいた歌唱スタイル。なにはさておき感情を優先させよう、という姿勢で楽曲と対峙したと思わしきここでの彼の歌は、これまで以上に人間臭さが感じられ、しみじみとした味わいがある。なお8枚目のシングル“はあとふる”(1980年)も同ドラマの挿入歌。“やさしさ紙芝居”同様のノスタルジアがベースとなった曲調のやさしいミディアムバラードとなっている。
自分らしく自然体な表現、という部分がより際立っているのは、「あんちゃん」の主題歌“普通のラブソング”(1982年)だ。松本隆と筒美京平のコンビによるこちらは、役者・水谷豊がモットーとする普通の男の生き様をテーマにした切ないラブソングで、哀愁を醸すメロディーが絶品の名曲。どこまでも朴訥とした歌いっぷりからは生身の水谷豊が透けてみえ、高い没入感を味わわせてくれる。
「あんちゃん」に続いて伊藤蘭と共演を果たした「事件記者チャボ!」では、“何んて優しい時代”(1983年)が主題歌に選ばれた。これまでと異なる点は、水谷自身が作詞作曲を手掛けているということ。そんな記念すべき曲からまっ先に伝わってくるのは、闇雲なまでの〈ガッツ〉だ。ヘリコプターで宙ずりにされた彼が登場するドラマのタイトルバックとイメージがピッタリ重なり合うダイナミックな曲展開。理想に燃えてどんどん突き進んでいくこの前のめり感もまた豊さん(が演じるキャラ)らしいと感じずにはいられない。
続く「気分は名探偵」で歌われたのは“人魚の誘惑”(1984年)。陰に隠れがちな名曲“あす陽炎”(1980年)を書いた伊勢正三がふたたび手掛けたシングル曲で、アーバンな感覚が漂うポップチューンとなっている。それから「探偵 左文字進」シリーズの“エンジェルSTREET”(1999年)も忘れてはいけない。“カリフォルニア・コネクション”や“やさしさ紙芝居”を作曲した平尾昌晃による1曲で、そこはかとなく漂う昭和臭がなんともクセになる。
テレビのなかの水谷豊は今日もなお、長きにわたって愛される国民的ヒーローを演じながら確かな存在感を放っている。そんな彼をぼんやり眺めつつ、そろそろふたたびマイクを握るタイミングではないか?と問いかけている自分がいる。実際のところ、いかがでしょうか?
PROFILE:桑原シロー
1970年、三重県尾鷲市生まれ。音楽ライター。2000年代半ば、タワーレコードが発行するフリーペーパー「bounce」の編集業務に携わり、退社後、フリーランスの音楽ライターとして活動。雑誌/ウェブを中心に記事を執筆。インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行なう。ロック、ジャズ、歌謡曲など幅広い音楽ジャンルに精通し、映画、芸能、お笑いの分野にも活動範囲を広げている。2014年から、日本のディープサウス、熊野在住の異能のギタリストのマネージャーも務めている。
