加山雄三やビリー・バンバンのボッサ歌謡シティポップ
1960年代にはまだシンガーソングライターという言葉自体が存在しなかったのですが、その先駆けともいえる自作自演のポップス歌手として最も注目すべきは加山雄三(弾 厚作)にほかなりません。加山雄三は都会というより湘南の人ですが、〈海〉や〈リゾート〉というイメージもシティポップを構成する要素の一つといえるでしょう。
そんなシーサイドの若大将が1968年に発表した『君のために』というアルバムがあるのですが、これがなかなかに洒落た1枚で、“ロンリー・ナイト・カミング”、“かわいい君”、“リオの夕暮”、“暗い波”というボサノバ調のナンバーが4曲も収められているのです。
一見すると若大将の明朗で一本調子なバリトン歌唱とボッサはミスマッチな気もします。ところがグッと抑えて囁くような低音ボイスが意外なほど魅力的でハマっているうえに、4曲ともオリジナルというのが驚異的。ちなみに前年には“ア・サンバ”という曲を書いていますが、こちらはスタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトの名盤『Getz/Gilberto』を過剰に意識したようなサックスを大フィーチャーした好曲。私的に『君のために』で一番推したいのは“何故”。ややGSっぽいサウンドが独特のグルーヴを醸すなか、ここでも抑制を利かせた歌唱でドライな歌詞を淡々と歌っているのがいい。
でも60s若大将シティポップの真骨頂は、翌年のアルバム『大空の彼方』に収録された“人知れず”でしょう。カバーはともあれ自作にしては珍しいソウルフルなミドルチューンで、小坂忠の『ほうろう』などが好きな方ならば気に入るかも。
その他の自作自演シンガーでは荒木一郎も相当に洒落たセンスを持った才人です。1970年代にはまさにシティポップとしかいいようのない曲をいくつか残していますが、1960年代で1曲選ぶならば“ブルー・レター”でしょうか。
大滝詠一ばりの艶やかなクルーナー唱法で歌われるアメリカンポップス調歌謡は、早すぎた『A LONG VACATION』という感さえあります。
日本のホセ・フェリシアーノとも称される長谷川きよしは、卓抜なギターワークもさることながらジェントリーな歌唱も素晴らしく、デビューアルバム『一人ぼっちの詩』(1969年)はサンバやボッサ色濃厚な名盤。
とくに”恋人のいる風景”は私的には高橋幸宏にカバーして欲しかった曲ですが、シティポップフリークならば稲村一志のイメージもちらつくかも。
自作自演のデュオではビリー・バンバンも忘れてはなりません。1969年のシングル”ミドリーヌ”はフランス語を交えたエレガントなボサノバ歌謡。彼らに焼酎のイメージしかない人にこそ聴いて頂きたいところです。




