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〈チャーリーxcxらしさ〉を貫いた成功

『Brat』のヒットがファンにとっても大きな驚きをもって迎えられたのは、イージーファンの起用を筆頭に、チャーリーが彼女らしいアンダーグラウンドな方向性を貫いたままで成功を得たことにある(むしろ、前作『CRASH』の方が、多くのヒットプロデューサーを招いて制作されたコマーシャルな作品だった)。それは印象的なアートワークからも読み解くことができ、ライムグリーンをバックに(あえて)雑に印字されたエイリアルフォントの〈brat〉の文字は、自身が絶大な影響を受けた1990年代のUKレイヴカルチャーのフライヤーを想起させる。

CHARLI XCX 『Brat』 Atlantic/ワーナー(2024)

当初は〈自身の写真を使うべきでは?〉という(女性蔑視的なニュアンスを含む)批判の対象にもなったこのアートワークは、やがて2024年を象徴するポップアート(つまりミームの元ネタ)としてファンダムの枠を超えて多くの人々へと拡散されていった(今思えば、その動き自体が『Brat』的でもある)。

『Brat』が従来の作品以上にダンスミュージックに重きを置いているということは、(当時はアルバムの詳細すら明らかになっていなかった)プロモーションの最初期に実施された今年2月のBoiler Roomでのパーティーからも明確だった。〈a cultural reset(文化的リセット)〉という言葉と〈PARTYGIRL〉というイベント名は、チャーリーが『Brat』に投影したものや、現在の彼女のモードを極めて端的に示している。

Boiler Roomに加えて、もう一つ、2024年のチャーリーxcxと『Brat』を象徴する出来事として挙げられるのが、3月に開催されたアワード〈Billboard Women In Music〉に出演した際に披露した“So I”のパフォーマンスである。同楽曲はソフィーに捧げられたものだが、それがこの場所とこのタイミングで初めて披露されたというのは、それ自体が一つのメッセージであったように思えてならない。

ダンスミュージックのカルチャーと、アンダーグラウンドで活躍する先進的なクリエイター、そしてクィアコミュニティへのリスペクト、それらの影響を受けた自分自身への誇りが詰め込まれた作品が『Brat』であり、それはこれまでポップリスナーが愛してきた〈チャーリーxcxらしさ〉の極めて高純度な結晶でもある。

こうした文脈はありつつも、『Brat』が大衆的な人気を獲得したのは、同作が単純に珠玉のポップソングが詰まった作品だからに他ならないだろう。TikTokでバイラルヒットを記録した“Apple”や、想像を絶するほどにキャッチーな“Girl, so confusing”も素晴らしいが、2000年代の着信音を彷彿とさせるイントロが印象的な“360”は、(アイコニックが極まったミュージックビデオも併せて)控えめに言って完璧だ。

現在では今年のサマソニ/ソニマニでもプレイされたニア・アーカイヴスによるリミックスや、ブロッサムズとリック・アストリーによるスターダスト“Music Sounds Better With You”との人力マッシュアップ、果てはゲーム「マリオペイント」の作曲ツールを使ったチップチューンカバーなど、ジャンルも時代も超えたさまざまな“360”が生まれているが、その事実こそがこの曲の普遍性の高さを何よりも証明している。