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カイリー・ミノーグ“Padam Padam”のヒットと『Brat』の共通点

2024年のチャーリーxcxのブレイクを読み解く上で、作品や個人単体ではなく、同時期のポップアーティストの勢力図の変化が与えた影響も見逃せない。2024年屈指のヒット曲となった“Espresso”を皮切りに、近年のメインストリームヒットの系譜に位置する洗練されたモダンポップで躍進を遂げたサブリナ・カーペンターと、1980年代のポップを誇張したかのような世界観の中でクィアでポジティブな物語を描き上げたチャペル・ローンがシーンを席巻していったが、チャーリーxcxの提示した『Brat』は、よりエッジーでダンスの熱狂に満ちた音楽を渇望する人々の需要に完璧に合致するものだった。

それは、マドンナやレディー・ガガといった女性アーティストによって脈々と受け継がれてきたポップの伝統であり、カイリー・ミノーグの“Padam Padam”による熱狂が一段落した2024年において、人々は『Brat』に次なる光を見出したのである(サブリナやチャペルがチャーリーに劣ると言いたいわけではない。むしろ3人のバランスがあまりにも絶妙だったのだ)。

実際、“Padam Padam”と『Brat』のヒットには、クラブシーンを強く意識した音楽性や、言葉やモチーフ自体がミームとして流行していく様子、クィアコミュニティによる熱烈なサポート(あるいはカマラ・ハリスを巻き込んだこと)など、多くの共通点を見出すことができる。特にクィアコミュニティの存在は極めて重要であり、Grindr(主にLGBTQ+の人々に向けたマッチングアプリ)による2024年の総括記事では、〈Mother Of The Year〉〈Ally Of The Year〉〈Album Of The Year〉などさまざまなカテゴリでチャーリーxcxの名前を見ることができる。彼女とクィアコミュニティと言えば、双方が熱心にサポートしあう関係にあり、『Brat』とそのムーブメントは、その豊かな歴史を祝うパーティーでもあったのだ。

 

2024年、ポップカルチャーの震源地となったビリー・アイリッシュとのコラボ

2024年のチャーリーxcxの躍進を振り返る上で、さまざまなゲストを巻き込んだ『Brat』のリミックスアルバム『Brat and it’s completely different but also still brat』も外すわけにはいかない。何より重要なのは、参加したゲスト陣がただ豪華なだけではなく、その多くがそれぞれの現在のモードを『Brat』を通して表現していたことにある。

CHARLI XCX 『Brat and it’s completely different but also still brat』 Atlantic(2024)

約5年ぶりとなるEP『SABLE,』を発表したボン・イヴェールが参加した“I think about it all the time”や、“Diet Pepsi”のヒットでネクストブレイク枠の筆頭となったアディソン・レイ(余談だが、彼女の近年における躍進を支えたのもチャーリーである)とA. G.クックによる“Von dutch”など、ハイライトを挙げればキリがない。

その中でも特に大きなインパクトを与えたのは、やはりビリー・アイリッシュとコラボした“Guess”だろう。大量の女性用下着の中で〈Eat it up for lunch, yeah, it’s so delicious〉と歌うチャーリーのラインが示すように、今年を代表するクィアダンスポップ“LUNCH”と『Brat』を繋いでみせた同リミックスは、全英チャート1位を飾る大ヒットを記録し、両者の2024年における存在感を決定的なものとした。言わば、『Brat』、あるいはチャーリーxcxという存在自体が、かつての〈Studio 54〉(1970年代、多くの著名人が毎夜訪れたことでも有名なニューヨークのディスコ)のように2024年のポップカルチャーの震源地となったのである。