敵が誰かは知っている
前述の通りエッジーな表題曲で幕を開ける『Critical Thinking』だが、94年の『Holy Bible』、2001年の『Know Your Enemy』、さらに2009年の『Journal For Plague Lovers』といったマニックスのディスコグラフィーに尖りをもたらしてきた彼ら流ポスト・パンク作の系譜に位置付けるべきアルバムというわけではない。イントロでスクイーズをサンプリングした高揚感に溢れる“Decline And Fall”、美しいピアノ・フレーズと打ち込みのリズムに広大な土地をドライヴしているかのようなスケール感が浮かび上がる“Out Of Time Revival”など、ウォー・オン・ドラッグスやキラーズといったバンドにも重なるスタジアム級のロックもまた本作の主軸を成している。ニッキーいわく〈オンリー・ワンズとスティーヴ・ハーレイ&コックニー・レベルとダイナソーJrを意識した〉というシンセが流麗に舞う件の“Hiding In Plain Sight”も、このバンドならではの美しくも壮大なアンセムと言えるだろう。なお、この曲で印象的なコーラスを乗せるラナ・マクドナーは、ツアー・バンドのギタリストであるウェイン・マレイのパートナーだ。
また、ラウンジーなリズムとアノラック・ギターを重ねた“People Ruin Paintings”、軽妙でブライトフルな“Being Baptised”など、マニックスのルーツであるネオアコ~往時のギター・ポップ趣味が強く表れている点も本作の特徴。とりわけ興味深いのは、ジェイムズがジョニー・マーに憑依されたかのようなギターを弾く“Dear Stephen”だが、なんとこの〈Stephen〉とはそのものズバリ、モリッシーのこと。ジェイムズが書いた歌詞でも“I Know It’s Over”やThe Boy With The Thorn In His Side”などの歌詞が引用されており、かつてのヒーローの醜態を嘆きつつ、〈僕らのもとに帰って来てくれよ〉と改心を願う甘酸っぱい楽曲だ。なお、ジェイムズは“Being Baptised”も作詞しており、こちらはアラン・トゥーサンと過ごした時間を回想したものだという。
一方、ニッキーの歌詞は、形ある芸術の意義に言及した“Brushstrokes Of Reunion”、自然から人間の痕跡を消したいと願う“People Ruin Paintings”、SNS化した社会への距離感を綴った“Deleted Scenes”、朽ちていくことと遺ることを思索する“Late Day Peaks”と、老年期に差し掛かりつつある彼が日々感じている、かつての信念や美が通用しない時代への厭世が濃く滲んでいる。その失意が憤怒として爆発するのが、最終曲の“OneManMilitia”。本作のなかでもっともハード・ロック~グラム色の強い演奏の上で、ニッキーは〈自分が何を支持しているのか分からない でも自分の敵なら知っている〉と力強く言い放つ。つまり、マニックスは資本主義に抵抗し〈お前の顔は見たくない〉と叫んでいた34年前と同様、いまも心に刃を持ち続けている。それが実に頼もしい。
左から、マニック・ストリート・プリーチャーズのベスト盤『National Treasures: The Complete Singles』(Columbia)、ジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールドの2020年作『Even In Exile』(MontyRay)
ヴァレリー・フィリップスによる写真集「Little Baby Nothings」(Longer Moon Farther)