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©2025 20th Century Studios

孤独の記録をいまふたたび

 そんなサントラのプロデュースを手掛けたのは、グラミー常連のプロデューサー、デイヴ・コブ。彼が運営を任されているナッシュヴィルのRCAスタジオAにて録音した楽曲が並べられており、自宅のベッドルームで4トラック・カセットMTRに吹き込んだデモ録音から成るオリジナルのテクスチャーがリアルに再現されている。ショーン・ペンの監督処女作「インディアン・ランナー」の原点となった“Highway Patrolman”、カントリー界の永遠のヒーロー、ハンク・ウィリアムスの47年発表の楽曲からタイトルを借りた“Mansion On The Hill”など、犯罪者や虐げられた者、時代の狭間で棲息する負け犬たちの歌が代わる代わる登場するが、暗闇に灯る小さな明かりや壁に映る影までもが聴こえてくるような雰囲気をいずれも湛えているのが魅力的。発表当時に装飾を徹底して排除したサウンド・スタイルが反時代的な振る舞いだと見なされた曲たちが、ここにおいては何やら崇高な遺産のような佇まいを見せているのも印象的だ。

 本サントラには『Nebraska』以外の楽曲も登場する。オープニングを飾るのは、この2年後に発表となり、世界各国でメガヒットを記録するアルバムの表題曲“Born In The U.S.A.”だ。「タクシードライバー」の脚本などを手掛けたことで知られるポール・シュレイダーから送られてきたシナリオからインスピレーションを受けて書かれたこの曲は、もともとの体裁は陰鬱なフォーク・ブルースであったが、のちにボブ・クリアマウンテンのプロデュースにより、派手なシンセ・リフとゲート・エコー効きまくりのドラムが炸裂するロック・ナンバーとしてパワフルに大変身を遂げたのであった。

©2025 20th Century Studios

 この映画では、同曲が地味で古めかしい『Nebraska』の世界とのコントラストを生み出す役割を担っているのだが、実際の仕上がり具合はというと、ボスのひりつくようなシャウトを巧みに再現してみせるジェレミーの歌唱が圧巻で、聴き応えは満点。同じく『Born In The U.S.A.』に収録される“I’m On Fire”のカヴァーがほろ苦いロマンス・シーンの背景に登場するのだが、原曲の魅力を形成するナイーヴな感触をジェレミーが実に上手く表現していることに注目されたい。

 アルバム終盤を占めるのは、リトル・リチャードの“Lucille”やジョン・リー・フッカーの“Boom Boom”といったロック~ブルース古典のカヴァー。これらはスプリングスティーンがアズベリー・パークのクラブ、ストーン・ポニーに定期出演していたキャッツ・オン・ア・スムース・サーフェイスのステージに飛び入りするシーンで披露されており(バンド・メンバーを演じるのはライヴァル・サンズのジェイ・ブキャナンやグレタ・ヴァン・フリートのジェイク&サム・キスカたち)、一転して享楽的ムードが満載で、ひたすら楽しいテイク揃いとなっている。

 『Nebraska』という孤独の記録をいまふたたび鳴らし直した映画と音楽。そこから聴こえるのは、名声の陰でみずからの影と対峙する一人のロック・ミュージシャンの呼吸だ。そんな彼の魂から発せられる微かな軋みをこのサントラは確かに刻んでいるのである。 *桑原シロー

ブルース・スプリングスティーンの作品を一部紹介。
左から、80年作『The River』(Columbia)、82年作の未発表テイクなどを集めたボックスセット『Nebraska 82: Expanded Edition』(Columbia/Legacy)、84年作の40周年記念盤『Born In The U.S.A.(40th Anniversary Edition)』(Columbia)

ブルース・スプリングスティーンの未発表作品を集めたボックスセット『Tracks II: The Lost Albums』(Columbia/Legacy)

左から、デイヴ・コブが参加したブルース・スプリングスティーンの2014年のトリビュート盤『Dead Man’s Town: A Tribute To Born In The U.S.A.』(Lightning Rod)、ライヴァル・サンズの2023年作『Lightbringer』(Atlantic)、グレタ・ヴァン・フリートの2023年作『Starcatcher』(Lava/Republic)