アートワークが意味するもの
ブルーノの顔がバストアップで描かれたアルバム・ジャケットは、モノクロームのシンプルなアートワークも目を引く。そして、ジャケットを縁取る薔薇と鎖、および書体は、チカーノ(メキシコ系アメリカ人)・アートやローライダー・カルチャーのそれを想起させる。〈ロマンティック〉という言葉自体が、その文化を象徴するものだ。思えばブルーノは、先述したカーディ・Bとの“Please Me”のMVをイーストLAのバリオにあるダイナー〈Tacos Mexico〉で撮影していた。メキシコ系ではないがラテン(プエルトリコ系)のルーツを持ち、LAで活動する彼にとってチカーノ・コミュニティは身近な存在なのだろう……とは推測にすぎないが、ブルーノがこれまでの活動を通して同コミュニティで好まれているようなスウィート・ソウルやドゥワップ(それらをチカーノたちが聴くソウル〜オールディーズという意味でチカーノ・ソウルとも呼ぶ)に愛着を示してきたことを踏まえると、新作のジャケットやタイトルには納得がいく。ブルーノがバンド・メンバー全員を演じた“I Just Might”のMVからもそんな雰囲気は感じられた。
加えて、“I Just Might“のミキシング・エンジニアに注目してみると、『Unorthodox Jukebox』以降のアルバムに関わってきたチャールズ・モニスのほか、ホーン・エンジニアとしてガブリエル・ロスとアンソニー・マシノの名前があることに気づく。ボスコ・マンの名でも知られるガブリエル・ロスはダップトーンの主宰者で、アンソニー・マシノはダップトーン系列から曲を出しているエムケイズのメンバー。『24K Magic』やシルク・ソニックの楽曲でダップトーン一派のホーマー・スタインワイスを起用していた繋がりとも言えるが、ジー・セイクリッド・ソウルなどの現行チカーノ・ソウル(こちらはチカーノたちが歌い奏でるソウル)を含むレトロ/ヴィンテージ系ソウルの立役者たちがエンジニアとして名を連ねているあたりにアルバムのヒントが隠れている気もする。
本号(「bounce vol.507」)が出る頃にはアルバムの全容も判明しているはず。いずれにしても、世代や人種、国籍を超えて楽しめる圧倒的なわかりやすさでブルーノ流のソウルを届けてくれることは“I Just Might”が出た時点で明らかだ。Dマイルがため息をつくほどの完璧主義者でもあるブルーノは、今回も万人を熱狂させるためにミックスやマスタリングも含めて手間と時間をかけまくったに違いない。新作『The Romantic』はインスタント・クラシックになることが約束されている。
左から、ブルーノ・マーズの2010年作『Doo-Wops & Hooligans』、2012年作『Unorthodox Jukebox』、2016年作『24K Magic』(すべてAtlantic)、シルク・ソニックの2021年作『An Evening With Silk Sonic』(Afterm ath/Atlantic)
ブルーノ・マーズの参加した近作。
左から、ロゼの2024年作『Rosie』(The Black Label/Atlantic)、レディ・ガガの2025年作『Mayhem』(Streamline/Interscope)、2025年のサントラ『Lilo & Stitch』(Walt Disney)
