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ブライアンが愛した作品

 で、妥協の産物だった『15 Big Ones』への反省を踏まえて意欲的に取り組み、77年4月にリリースされたブライアン入魂の一作が『The Beach Boys Love You』だ。76年後半から一人でスタジオ入りした彼は、当初は『Brian Loves You』という仮題でソロ名義でのリリースを検討していたとされる。最終的にはリプリーズとの契約を満了するためのバンド作品になったものの、ほぼ全曲を書き、キーボード、シンセサイザー、ドラムスなど、ほとんどの楽器を演奏したブライアンが完全にパーソナルな興味のままに取り組んだということは、太陽系やローラースケートから妻や娘、愛人までの関心事について率直に綴った歌詞からも明らかだ。実際に後のブライアンは本作を『Pet Sounds』以来もっとも創造性に溢れた作品だと語り、いちばん好きなビーチ・ボーイズのアルバムとしても挙げている。商業的には不発だったものの、その実験精神の面ではニューウェイヴ時代に先駆けたシンセ・ポップだと見なすこともできるし、後年になってヨ・ラ・テンゴがリメイクした“Ding Dang”やアレックス・チルトンが取り上げた“I Wanna Pick You Up”があるように、コアなファンや通好みなリスナーへの〈愛〉を届けることに成功した作品なのは疑いない。

 こうした時期を総括した今回の『We Gotta Groove: The Brother Studio Years』は全73トラックのヴォリュームで迫る特盛の3CDだ。まずDisc-1には『The Beach Boys Love You』の本編&アウトテイクが並ぶ。Disc-2には未発表作『Adult/Child』のセッション音源と74〜77年のアウトテイクを収録。そしてDisc-3には『15 Big Ones』のアウトテイク&別ミックス、さらに『The Beach Boys Love You』の別ミックスとブライアンによるカセット録音のデモまでが収められ、トータルで未発表曲/未発表テイクは35、新ミックスは22に及ぶ。

 そのなかでも最大の目玉となるのは、77年9月にリリースが予定されるもお蔵入りしたアルバム『Adult/Child』の初公式音源化だろう。ポップにしてストレンジな表情も窺わせる本作は『The Beach Boys Love You』制作後のブライアンが77年2月から6月にかけて取り組んだ半自伝的な作品。人間の性格は〈大人/子ども〉の思考様式に分けられるという理論に由来する表題は、彼自身の人格にある2つの側面を説明するような言葉とも言え、アウトサイダー的な要素を強めていく当時のブライアンを言い当てる形容だったのかもしれない。一部の曲は後の作品で再録されたり、後年の編集盤で蔵出しされたものもあるが、今回まとめて味わうことができるのは快挙だろう。

 そうした貴重音源のありがたさもありつつ、デモに至るまでの全編から伝わってくるのは、自分自身と向き合い続けたブライアンの作品に掛ける思いだ。エッジに立って危ういほどの純粋さで理想を追求した彼の〈愛〉に溢れた記録をこの機会に堪能してみてほしい。

ビーチ・ボーイズの作品を一部紹介。
左から、 66年作『Pet Sounds』、2011年の編集盤『The Smile Sessions』、2012年作『That’s Why God Made The Radio』(すべてCapitol)

ブライアン・ウィルソンの作品を一部紹介。
左から、ヴァン・ダイク・パークスとの95年作『Orange Crate Art』(Warner Bros.)、2008年作『That Lucky Old Sun』(Capitol)、ベスト盤『Playback: Brian Wilson Anthology』(Rhino)

ブライアン・ウィルソンの参加した近作。
左から、ジャネル・モネイの2018年作『Dirty Computer』(Bad Boy/Atlantic)、ケシャの2020年作『High Road』(RCA)、グレン・キャンベルの2024年作『Duets: Ghost On The Canvas Sessions』(Big Machine)