〈私の書いたすべてが大地のページへと変わっていく〉
ものすごい小説の翻訳が出た。
原題は、テラ・ソニャンブラといい、微妙かつ多重なニュアンスを感じさせ、うたのタイトルを思わせる。直訳的でもありながら卓抜な邦題だと思う。
MPB(ブラジル大衆音楽)みたいな響きねと思う方もあるかもしれない。そう、モザンビークはポルトガルが宗主国として支配した植民地だった時期があり、本書もポルトガル語で書かれている。
モザンビークは、1975年にポルトガルからの独立を勝ち取ったものの、1977年から92年まで内戦状態となる。独立戦争が1964年からあったわけで、長い長い気の遠くなるような混乱の経験だ。

本書は、内戦の時代を舞台としている。〈訳者あとがき〉には、時代背景と作家自身の来歴が簡潔にまとめられている。しかし、読者はまったくの予備知識がなくとも、作品世界に没入することができるはず。さらに〈訳者あとがき〉を!
〈その地では戦争が道路を殺してしまった〉。書き出しの一文。殺された道路が描写される。〈ひとりの老人とひとりの少年が道路を歩んでいる〉。彼らは〈生まれてこの方、歩くのが唯一の仕事であるかのようだ〉と。演劇のようでも、殺された道路そのものが舞台のロードムービーかのよう。痺れる。
2007年には映画化もされているとか!
この二人がいったん休むことにした、やはり殺されたような場所で、少年が誰かのノートの束を見つける。全11章、老人と少年、さらにたまに現れる人びとの物語と、少年が音読するノートのなかの物語を往還しながら進行していく。のだが……。
荒廃し切った情景の描写は、神話的・寓話的でもあり、同時に極めて具体的で、イメージに溢れている。陰惨さのなかに、優しさやさらっとしたユーモアもあり、読むものを捉えて離さない。登場人物への感情移入や物語の先が知りたくなる、というのとは違う。語り口の巧みさか。パンチラインも随所に。翻訳も素晴らしい。
ネタバレがどうのという作品でもないから、この際、結びも引用する。〈そして文字のひとつひとつが砂粒に変わっていき、私の書いたすべてが大地の頁へと変わっていく〉。痺れる。
本書は、国書刊行会による〈アフリカ文学の愉楽〉シリーズ全6巻の2冊目の刊行作品。1作目のアラン・マバンク「割れたグラス」(桑田光平訳)。マバンクはコンゴ共和国出身。〈コンゴ〉は現在の国家としてはコンゴ共和国とコンゴ民主共和国があり、前者はフランスの、後者はベルギーの支配を受けてきた。各巻共通についている栞に、桑田はシリーズ全体についてこう書いている。〈こんなことなら、もっと早くに出会っておきたかった〉。まさに。