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『AI』『Café Del Mar』『Kitsuné』……トレンドを形作ったコンピCD

ミックス以外では、コンピレーションCDも重要です。エイフェックス・ツインやダフト・パンクのようなアーティストが認知されたのは〈アルバム〉で作品を作ったから、すなわちロック史観的な批評の俎上やメディアに乗るためには〈アルバム〉というフォーマットで曲をまとめる必要がある訳ですが、クラブミュージックの現場は12インチ等の〈シングル〉が中心の世界。それらを〈アルバム〉のようにまとめてストーリーを作るのがDJの役目とも言えましょう。という訳で、ダンスミュージックにおけるジャンルやトレンドを決定づけた楽曲を知るには、アルバムよりもコンピレーションCDの方が適しているのかも知れません。

例えば名門ワープ・レコードによる『Artificial Intelligence』は、ソファでくつろぐロボットのジャケットと〈Electronic Listening Music From Warp〉という副題が示すように〈家で落ち着いて聴くテクノ〉というコンセプトを提示し、後に〈IDM(Intelligent Dance Music)〉と呼ばれるテクノの原点となりました。優れたコンピレーションは単なる寄せ集めではなく、新ジャンルのマニフェストとなる好例と言えましょう。

VARIOUS ARTISTS 『Artificial Intelligence』 Warp(1992)

世界中のパリピ(死語?)の聖地、スペイン・イビサ島の老舗カフェ〈デル・マー〉のレジデントDJであったホセ・パディーヤが選曲した、店の名前を冠したコンピレーションが『Café Del Mar』シリーズ。海面に沈む夕陽が美しいロケーションであるカフェ・デル・マーにふさわしく、なおかつクラブミュージックの文脈に則ったチルアウトミュージックが収録されています。ホセ・パディーヤは2020年に亡くなりましたが『Café Del Mar』はその後も続き、2025年には45周年記念の豪華盤もリリースされています。

VARIOUS ARTISTS 『Café Del Mar 45th Anniversary』 Café Del Mar(2025)

2000年代のエレクトロクラッシュブームを象徴する『Kitsuné Maison Compilation』は、パリの人気ブランド・メゾン キツネが手掛けたシリーズで、そのファッショナブルなイメージも手伝って日本でもヒットしました。当時、美容師 or ショップ店員 or 専門学校生で「今度、友達のショーでDJやるんす~」というような若者らがこぞって買っていました。ネオンカラーのパーカー、カラフル過ぎるレギンス、サルエルパンツ。Y2Kブームの次はこういうのがまた来るんでしょうか。

デヴィッド・トゥープによる〈誇張しすぎたアンビエント〉コンピ『Ocean Of Sound』、マニアックなニューウェーブディスコの名曲をディグった『Disco Not Disco』シリーズなどなど、中古盤屋で見つけたら絶対に手に取るべき好コンピはいろいろありますが、ひとまずこんな所で。

 

往年のCDJがクラブの光景を変えた

CDとクラブということで、CDJの話もしましょう。CDJは文字通り、CDでDJをするための機材。その最初期の機種が、1994年に発売されたPioneer CDJ-50(これ以前に発売されたCDJ-300という機種もあるようですが、なぜか公式サイトでもあまり触れられておらず幻の存在……)。

過去のデラさんのインタビューにもある通り、DJ連中からは当初「DJやるならレコードじゃなきゃ! キュワキョワッ(スクラッチ音)」といった反発も多かったCDJ。しかし、まだレコードになっていないデモや未発表曲もCD-Rに焼けばクラブでプレイできる、レコードに比べて荷物が大幅に減るし針もいらない、といった利点がCDJにはありました。じわじわと、レコードと併用する形で、DJもCDJを使い始めるように。

スクラッチ機能も改善された2001年発売のCDJ-1000あたりから、CDJもまた〈ツール〉として認められるようになりました。DJがブースで、レコードバックを探るのではなく、バインダー型のCD収納ケースをパラパラめくる光景が広がります。

エレクトロクラッシュブームの立役者ラリー・ティーの2008年のDJの様子。CDJ-800MK2の下、手元にCD収納ケースがありますね

しかし、さらに技術は進み、現代のDJはUSBに収めたmp3/wavといったデータで選曲するのが主流になりました。最新機であるCDJ-3000は、もはやCDの読み取り機能自体が削減されております……じゃあCDJじゃないじゃん!

ちなみに、圧倒的なシェアでDJ機材の帝王として君臨しているPioneer DJ(現AlphaTheta)ですが、CDJ黎明期にはDENON、Technics、Vestaxといったさまざまなメーカーが、CDJを発売しており、群雄割拠の時代がありました。今でも老舗のDJバーや地方の小箱のブース下で、DZ-1200やDN-S3500といった往年の名機が、ひっそりと埃を被っている所に出くわすことがあり、平家の落人の足跡を見るようで、涙を誘います。ツインCDJとかデュアルCDJとか呼ばれる、簡易ミキサーと2台のCDJが連結している一体型もありましたな。

ということで、今回のテーマはCDとクラブミュージックでございましたが、日本のDJやアーティストについてはまったく触れてません! なので、次回はJ-CLUB編でございます。ではでは。

 


PROFILE: Kotetsu Shoichiro

ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
オフィシャルサイト:https://kotetsu-shoichiro.com/
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