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王道のフー・ファイターズ

 そうしたこともあり、正直なところ、僕自身もフー・ファイターズの次のアルバムに関しては、期待よりも不安のほうが幾分か強かったことは否めない。だが、ここに届けられた新作『Your Favorite Toy』を構成する10曲には、嬉しい意味で予想を裏切られた。前作での苦悩どころか、10数年来続いていた音楽制作のうえでの迷いがスパッと消え、晴れ間が差し込んできたような爽快感さえ感じたのだ。デイヴいわく〈寒さのなか、地平線から希望の陽射しを待つイメージ〉というラスト・ナンバー“Asking For A Friend”を除くと、初期に馴染んだタイプの王道フー・ファイターズ・アンセムが並んでいる。

 のっけからデイヴの咆哮が聴ける1曲目の“Caught In The Echo”は、賑やかりし頃の初期チープ・トリックを彷彿とさせる。こういうタイプの曲はこのバンドにはいつでもあるといえばあるが、それでも近作よりもスカッとした抜けの良さがある。今作はバンドと若手エンジニア、オリヴァー・ローマン(キム・ゴードン、クリブス)との共同プロデュースで、カースティンは参加していない。彼の不在が結果的にこうした音を産んだのではないか。

 2曲目の“Of All People”も畳み掛けるタイプのロックンロールだが〈すべての人のなか、君だけが生き残った〉〈俺は幽霊を見たよ〉と、悲しい別れの相次ぐ現実をしっかり受け止めたまま、力強くロックを続けることへのデイヴなりの決意表明を感じさせる。

 そして、ややテンポを落としてのメロディックな“Window”の後に続く表題曲は、今作のハイライトのひとつ。デイヴはこの2月、Apple Musicのゼイン・ロウの番組で「これまで俺たちは進化も成長も果たしてきた。だからこそ、この先どこに行けばいいんだ?と思っていたが、その答えは自分自身のなかにあることに気付いた。何が俺たちを笑顔にさせ、小躍りさせるのか。それが、この曲を作ったことではっきりとわかった」と語っていた。今後のツアーでも見せ場の一曲となるのは確実だろう。
続く“If Only You Knew”でデイヴは〈俺には手を取ってくれる人が必要だ。休めるところに連れて行ってくれないか〉と語りかけるが、これは最愛の妻ジョーダンに向けた言葉だろうか。すでに2人は繰り返し公の場で関係が修復したことを示しているが。

 ファストなパンク・チューン“Spit Shine”を経て、ダウンテンポの哀愁漂うリフからサビで一気に盛り上げる“Unconditional”にはシングル・カットのポテンシャルも。そして〈俺は子役俳優だった〉と歌われるややメランコリックな“Child Actor”。実際に子役経験はないデイヴだが、何をやっても受け入れられない悲しい立場を引き受けたかのような歌だ。

 ややテンポを落とした2曲の後は、初期の人気曲を思わせるヴァイヴを持つ“Amen, Caveman”を鳴らし、“Asking For A Friend”でフィナーレを迎える。36分26秒という収録時間は彼らのアルバムにおいて過去最短の尺。初期衝動的なインスピレーション重視の姿勢はこうしたところにも表れている。

 なお、この10曲は新加入のドラマー、イラン・ルービンがすべて叩いていることも押さえておきたい。“If Only You Knew”をはじめ、手数の多い自由な見せ場を与えられている彼は、昨年7月までナイン・インチ・ネイルズに参加していた。なんでもデイヴは早くから彼に目を付けていたようで、NINのツアーが終了する前に駆け付け、ジョシュの後任ドラマーとしてアタックしたようだ。デイヴといえば、テイラーの前任ドラマー、ウイリアム・ゴールドスミスに対し96テイク録らせた末に脱退させたという鬼伝説ぶりでも知られているが、その審美眼を満足させるだけのケミストリーが早くから発揮されているのも良いサインだ。

 紆余曲折と苦難を乗り越え原点に立ち返り、瑞々しく若返ったフー・ファイターズ。この5月には、前作で親子デュエットも聴かせたデイヴの長女ヴァイオレット・グロールがアルバム・デビューを果たすことも決まっている。娘たち世代からの刺激もエネルギーに変えつつ、これからも彼らは世界最大規模のロック・バンドとして音楽シーンに君臨し続けることだろう。 *沢田太陽

デイヴ・グロールの近年の参加作を一部紹介。
左から、キム・ゴードンの2026年作『Play Me』(Matador)、2025年のサントラ『A Minecraft Movie』(Watertower)、『F1 The Album』(Atlantic)、セイント・ヴィンセントの2024年作 『All Born Screaming』(Total Pleasure)

メンバーの作品や参加作を一部紹介。
左から、クリス・シフレットの2023年作『Lost At Sea』(Blue Élan)、ラミ・ジャフィーが参加したコルドヴァスの2026年作『Back To Life』(Yep Roc)、イラン・ルービンが在籍するエンジェルズ&エアウェーヴズの2021年作『Lifeforms』(Rise/BMG)