今年で活動20周年を迎える蓮沼執太が劇場アニメ「花緑青が明ける日に」のサントラを担当。日本画家でもある四宮義俊監督が生み出す独自の世界観を、エレクトロニックなサウンドで彩る。
ソロ、バンド、フィルなど様々な形態で活動し、今年デビュー20周年を迎える蓮沼執太が劇場アニメのサントラを手がけた。日本画家の四宮義俊による初長編監督作「花緑青が明ける日に」は、立ち退きを迫られた花火工場を舞台にした3人の若者たちの物語。蓮沼は四宮とは初顔合わせだった。
「サントラの話を頂いたのは『unpeople』(23年)を出した頃でした。監督は芸術全般に興味を持たれているようでしたので、草月会館の石庭で『unpeople』のサウンド・ライヴ・インスタレーションをやった時に観に来て頂いて、自分がポップスのフィールドではやらないようなアプローチをしている音楽家だということを体験してもらったりもしたんです」
サントラの制作が始まると、四宮は曲を使いたいシーンを指定。そのシーンにあわせて蓮沼は曲を作っていったが、サントラによくあるメインテーマのヴァリエーションのような曲はなく、個性豊かな曲が並んでいる。
「今回は監督から映画の話を聞いて、無添加で透明度の高い音を作ろうと思っていました。僕はハードウェアで曲を作っているので、自分の精神状態がそのまま音に出るんです。だから曲作りをする時は、体も心も健康な状態でやるように心掛けました。14曲くらい書いたんですけど、そのひとつひとつにキャラクターがあります。監督が手作業で絵を描いているように、僕も一曲一曲、手作業で曲を作ったんです。そして、曲の構造がある程度見えた段階で監督に聴いてもらいました。監督は音楽に対するヴィジョンがしっかりあるようで、絵と同様に音楽に関してもディテールにこだわっていましたね。〈絵の光と音の光を合わせる〉みたいな詩的な表現でオーダーしてくるのが、僕にとって面白いところであり、難しいところでもありました」
四宮が日本画家ということもあって「花緑青が明ける日に」の特徴は色彩だ。その透明感のある鮮やかな色合いが、ほとんど蓮沼一人で作り上げたサントラの電子音や澄んだリヴァーブに反映されている。
「僕は以前から日本画が好きで、日本画の岩絵の具の発色の感じ、例えば緑の蛍光色を思わせる色合いとかが頭の中にありました。なので、監督が映画でやろうとしていた質感がある程度イメージすることはできたんです。もちろん、僕のイメージを大きく超えてくるだろうなとは思っていましたけどね。同時期に別の映画の劇伴も作っていて、そっちはオーケストラを入れたダークアンビエントな感じだったのですが、それとは対照的にエレクトロニックで明るいサウンドになりました」
曲の中にはシューゲイザー風の“Capgaze”という曲もあり、蓮沼のオリジナル作品とは違う面が見られるのもサントラだからこその面白さだ。
「この曲は結構試行錯誤しましたね。僕が普段絶対作らないロックな曲がレファレンスとして監督から来たんです。一度モノマネして作ってみたら監督に〈本物すぎる〉と言われて(笑)。この作品は本物感を追求するとアート・ムービーになっていたと思うんですよ。監督は幅広い人に映画を見てもらうために、大衆的な要素を入れておきたかったんだと思います。だからあえて本物感を出さないようにしたんじゃないでしょうか。僕も自分の作品は幅広い層の人にフラットに接してもらいたいと思っているので、監督のそういう姿勢には共感するところがありました」
そうした共感が映像に寄り添った音になり、その音が映像に新しい色を加えた。蓮沼と監督の個性が美しいハーモニーを奏でているようなサントラは、2人のコラボレーションといえるかもしれない。
「サントラの仕事というのは、監督とのやりとりを通じて自分のイマジナリーを粘土みたいに変化させられるのが面白いんですよ。音楽を作っている時は、この映画が一体どんな作品になるのかまったく想像できませんでした。完成した作品を観ると想像を超える情報量と彩りを持った作品になっていた。音楽がその色彩の一部になれたことは幸せでしたね」
蓮沼執太(Shuta Hasunuma)
音楽家、アーティスト
1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して、国内外での音楽公演をはじめ、映画、テレビ、演劇、ダンス、ファッション、広告など様々なメディアでの音楽制作を行う。また〈作曲〉という手法を応用し物質的な表現を用いて、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス、プロジェクトを制作する。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2026年8月6日に活動20周年記念コンサートを東京サントリーホールで開催。
LIVE INFORMATION
蓮沼執太Wフィル 活動20周年記念コンサート
2026年8月6日(木)サントリーホール 大ホール
開場/開演:18:00/19:00
https://www.shutahasunuma.com/
