60年代のサイケデリック感覚を現代的にアップデートしたら? 生きている森の奥に広がっているのは、時代感を超越した美しいポップスの迷宮だった……!
夢のようなもの
森のなかに入ると、まるで別世界のような気がする。日常とは薄皮一枚隔てた見知らぬ場所。そんな〈ここではないどこか〉へと誘ってくれるのが、東京出身の5人組バンド、森は生きているだ。2013年に発表したファースト・アルバム『森は生きている』が注目を集め、〈フジロック〉をはじめ数々のフェスやイヴェントでライヴ・バンドとしても高い評価を得てきた彼らが新作『グッド・ナイト』を完成させた。前作ではライヴ感溢れるバンド・サウンドを聴かせてくれたが、今回はバンドでレコーディングした音源を、リーダーの岡田拓郎(ギターほか)が自宅に持ち帰って一人でミックスをして仕上げたらしい。前作とのアプローチの違いを岡田はこんなふうに説明してくれた。
「前回はレコーディングにかける時間が限られていたこともあって、スタジオで全部済ませられるようなライヴ感のあるアルバムにしようと思ったんです。でも、それでは満足できないことがいろいろあって。曲を書いていると音像まで浮かんでくるから、どうしても手を加えたくなってくる。これまではバンドで録った音はあえて手を加えなかったんですけど、今回はかなりいじりましたね。あとで聴いて演奏が気に入らないとこはそこだけ録り直したりして、スタジオを使っておきながら半分以上は宅録(笑)。結局ミックスに2か月以上もかかってしまいました」(岡田)。
ミックスによってどんどん変化していく音をメンバーに聴かせて確認を取る作業が続くなか、「だんだんみんなから返事がこなくなって……」と岡田は苦笑するが、最後まで付き合ったのがドラマーの増村和彦だ。
「最後のほうになると充分完成品として成立するクォリティーなんですよ。でも、岡田君の〈ここがちょっと……〉という説明を聞いて直したものを聴くと、さらに良くなっている。さすがだな、と思いました。今回は新曲をライヴであまりやってなかったこともあって、アレンジが詰められてなかった。だからミックスの段階でいろいろアイデアが出たというのもありますね」(増村)。
そうやって苦労の末に作り上げられたのは、次々と目の前の風景が変わっていく迷宮のようなサウンドだった。
「今回は支離滅裂で時代感も統一されていないし、曲に関してはビートルズの〈ホワイト・アルバム〉みたいな感じですね。アルバムのトータル・イメージは “煙夜の夢”が出来た時に見えてきました」(岡田)。
“煙夜の夢”は3つのパートから成る17分に及ぶ組曲で、本作のハイライトとも言えるナンバー。作詞を担当する増村は、この曲を発端とする本作のコンセプトは〈夢〉だと教えてくれた。
「前作でもテーマは夢だったんですけど、歌詞を書いている時期に考えていたことを自然と形にしていった結果だったんです。でも、今回は最初から意識して書きました。その差は大きいですね。“煙夜の夢”と“プレリュード”の歌詞を書いて言いたかったことをひとつ表現することができたので、ほかの曲の歌詞もコンセプチュアルに書いていけました。夢というか、夢のようなもの。言葉で説明するのは難しいですけど、そこは音楽を聴いて感じてもらえればと」(増村)。