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享楽的で猥雑なキャバレー

 何かが変わり、壊れていく様子と、そのなかで失われていくものに本作のアスは眼差しを向けている。アルバム・タイトルの『Everybody’s Giving Up The Cabaret』にもまた、そうした視点が反映されていると、テオは話す。

 「このタイトルは、多くのことを要約している言葉だと思う。いまは信念を手放していってしまう人、人生の明るい部分を諦めてしまう人がたくさんいて、みんながどんどん深刻になっていくような感覚があり、それをこのタイトルに込めているんだ。同時に、このアルバム・タイトルは70年代のフィンランドで活動していた〈ロックンロール・バンド〉という名前のバンドを意識したものでもあって……。彼らが1枚だけ残したアルバムが『Everybody Needs Dance Music Sometimes』というタイトルなんだよ。そこへのオマージュでもある」

 このタイトルにある〈キャバレー〉とは、テオいわくの〈明るい部分〉を象徴するコミュニティーであり、享楽的かつ猥雑で、まさにロックンロールの原風景ともいえる場所。実際、アスはそういう場で育ってきたバンドなのだ。

 「〈キャバレー的なもの〉という感覚は自分たちの表現にずっとある。フィンランドでは毎年秋に遊園地でカーニバルがあるんだけど、結成当初の僕らはそこで1日7ステージとか、ものすごいペースで演奏していたんだよね(笑)。カーニバルや遊園地のすべてがキャバレー的/サーカス的な雰囲気に満ちていて、そのイメージがずっと残っているんだと思う。それが僕たちの出発点なんじゃないかな」。

 そんな彼らだからこそ、日本が生んだ最高のロックンロール・バンドにも強烈なシンパシーを感じたのかもしれない。それは、アスがファンであると公言し、今作では楽曲“Baby, please go home”をカヴァーしている、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTだ。

 「〈ミッシェル〉は僕らにとってものすごく大きな存在。しかも彼らを知る前から、僕らはずっと影響を受けていたんだよ」。

 2000年代初頭のフィンランドで〈ストリート・ロック〉と括られていたバンドたちから、TMGEは愛されていた。そうしたストリート・ロック勢に憧れてバンドを始めたアスも、無意識に遺伝子を受け継いだのだろう。

 「だから初めてTMGEを聴いたとき、すごく聴き覚えがあると感じたんだ」。

 アスの“Baby, Please Go Home”を聴けば、その言葉にも納得だ。彼らはオリジナルの熱量や大胆さを完全に自分たちのモノにして、まるで自身の楽曲のように乗りこなしている。

 〈TMGEの遺伝子〉を受け継ぐバンドだからこそ、日本のロック・ファンは放っておかなかった。デビュー前の2023年に〈フジロック〉を主催するスマッシュの創業者・日高正博氏に才能を見い出されたアスは、2024年、2025年と2年連続で〈フジロック〉に出演。初年度の2024年には、なんと前夜祭を含む4日間で6つのステージを踏んでいる。それこそ、結成当初の彼らが遊園地で怒涛のショーをこなしていたように。そして2026年の〈フジロック〉にも、彼らは戻ってくる。

 「日本でのライヴも〈フジロック〉も経験として本当に信じられないものだったし、オーディエンスの反応もすごく嬉しいものだった。今年は〈RED MARQUEE〉に出るんだけど、あのステージも大好き。フォンテインズDCを観たんだけど、本当によかったな。自分たちがやってきたなかで最高のライヴになることを約束するよ!」。

アスの作品を紹介。
左から、2024年作『Underground Renaissance』(Us/ソニー)、ライヴ盤『We're Us! Live In Japan 2024』(ソニー)

“Baby, please go home”のオリジナルを収録したTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのベスト盤『TMGE106』(TRIAD)

チャーリー・ラッセルが制作に参加した作品を一部紹介。
左から、キャストの2026年作『Yeah Yeah Yeah』(Scruff Of The Neck)、ウォーガズムの2023年作『Venom』(Slowplay/Republic)、ヴューの2023年作『Exorcism Of Youth』(Cooking Vinyl)