サントリーホールにおいて夏フェスといえば、現代音楽の祭典〈サントリーホール サマーフェスティバル〉。初代監修者を務めた武満徹(1930〜96)が提唱した〈ホールが創造空間となる〉ことを目指し、世界の第一線で活躍する作曲家に毎年新作を委嘱し、世界初演を重ねてきました。48作目の委嘱作品を手がけるのは、イタリアの作曲家、ルカ・フランチェスコーニ。ジャズから前衛音楽、オペラ、電子音響まで自在に横断する創作は、緻密な構築性と多文化的な想像力をあわせ持ちます。今回は、自身の創作観と新作についてお話を伺うことができました。


 

イタリア、ベリオ、オペラ

――あなたの作品にはいつも前へ前へと進んでいく推進力がありますが、その源泉は何なのでしょう。イタリア人気質?

「たしかにイタリア人は音楽を〈点〉ではなく〈線〉として考える傾向が強いように思う。線、というのは単に旋律のことではなくて、音楽の流れみたいなもの。ベリオやドナトーニの音楽にも、絶えず前へ進み続ける感覚があるでしょう?」

――ベリオといえば、あなたは彼の弟子と紹介されることもあるけど、実際には弟子ではなく〈助手〉ですよね?

「そう、彼から体系的に教わったことはない。モーツァルトみたいな人で、何でもできるのだけど何も教えてくれない(笑)。もちろん僕は大ファンだったから、彼がワインを飲み過ぎて機嫌がよさそうなときを見計らって色々質問するんだけど、返ってくるのは謎めいた答えばかりだったな。彼の作品のある個所について尋ねたとき、〈これはコード(和音)じゃない、ハーモニー(和声)だ〉と言われて、その意味をずっと考え続けたり」

――ふふ、簡単には秘伝を明かしてくれない。

「でも、一度だけ真正面から〈作曲に必要なものは何ですか〉と訊いたことがある。その時、彼は即座に〈分析と対位法だ〉と返してくれた。僕はいまでも、この二つこそ西洋音楽の思考の核だと思っているんだ。分析とは、表面ではなく深層を見ること。そして対位法とは、異なる層を組織し、均衡させること」

――それは多分、記譜とも関わってきますね。

「そう、西洋音楽は精密な記譜法によって発展してきたけど、その反面、紙に書けるものだけを重視し、身体感覚を置き去りにしてきた。だからこそ、分析と対位法という本質を踏まえながら、その上で自由であるべきだと思う」

――イタリアといえばオペラの国。あなた自身も多くのオペラを書いていますが、とりわけ「カルテット」(2011)は大成功を収めました。

「僕にとってオペラは、巨大なマルチメディア・マシンなんだ。だから常に〈現在〉のものでなければならないのだけど、オペラ劇場というのは象みたいなもので、実に動きが遅い。その点『カルテット』というオペラでは、ビデオも使えたし、20人ほどのアンサンブルだったから機動力があった。その身軽さが成功につながったんだと思う。でもね、新作『アテネのタイモン』は本当に不運なんだ。コヴェント・ガーデンの委嘱だったけれどブレグジットで中止。次はバイエルン州立歌劇場が引き受けてくれたけれどコロナで延期。ようやくスカラ座で2027年の初演が決まったと思ったら、インテンダント(総支配人)が交代して〈やらない〉と(笑)。東京で初演できないかなあ」

――うーん、実現したら本当に素晴らしいのですが……。