“チョコレイト・ディスコ”が変えた『Complete Best』の役割
ところが約半年後、『Complete Best』には別の役割が生まれる。
2007年2月14日、本作の通常盤と同じ日に発売された『Fan Service [sweet]』に、“チョコレイト・ディスコ”が収録された。この曲を契機に、Perfumeをめぐる空気が変わり始める。
僕がPerfumeに出会ったのも、2007年の春頃だった。オールナイトイベント〈申し訳ないと〉のフロアで、掟ポルシェがかけた“チョコレイト・ディスコ”を耳にした瞬間、すっかり夢中になった。すぐに『Complete Best』を買って遡り、“コンピューターシティ”も“エレクトロ・ワールド”も“パーフェクトスター・パーフェクトスタイル”も、すでに存在していたことに驚いた。
同じような体験をしたリスナーは、決して少なくなかったと思う。吉田豪、宇多丸、掟ポルシェらが雑誌やインタビュー、クラブやライブの現場で早くからPerfumeを支持し、木村カエラがラジオで“チョコレイト・ディスコ”を繰り返しかけた。それをCM関係者が耳にしたことが、公共広告機構のCMと“ポリリズム”へつながっていく。さらに動画サイトでは、Perfumeの楽曲と映像を組み合わせたファンメイドの動画が広がり始めていた。
雑誌、批評、クラブ、ラジオ、テレビCM、インターネット。ひとつの巨大な宣伝によって押し上げられたのではなく、異なる場所にいた早耳の人々が、それぞれの回路で同じ価値に気づいていったのだ。
その動きは数字にも表れている。『Complete Best』は2007年7月にオリコン週間ランキング165位へ再登場し、8月には99位まで上昇した。“ポリリズム”のCDが発売される9月12日より前に、新しくPerfumeを知った人々が過去へ遡り、アルバムを買う現象がすでに起きていたのである。
2006年には〈終わり〉を連想させた作品が、2007年には新規リスナーにとって、驚異的に完成度の高い〈事実上のデビューアルバム〉になった。収録曲は1曲も変わっていないのに、アルバムの意味だけが半年ほどで反転したのだ。
Perfume像完成への過程が刻まれた〈近未来3部作〉
新しいリスナーが本作で遭遇したのは、単に珍しい電子音を鳴らすアイドルではなかった。
“リニアモーターガール”の硬質なシンセと、ロックンロールの骨格を思わせるベース。往年のテクノポップを更新したようなレトロフューチャー感は、のちに確立されるPerfume像をすでに提示している。当時のあ〜ちゃんは、本当はバラードを歌いたかったのに、ピコピコした音も意味のつかみにくい歌詞も自分たちらしくないと感じていたことを振り返っている。完成されたPerfume像に、まだ本人たちが追いついていない。そのずれも含めて、この曲はスリリングだ。
“コンピューターシティ”では、フレンチハウス以後の硬質なビート、機械化されたボーカル、どこか懐かしい旋律がひとつになる。完璧に制御されたシステムと、そこに生じたエラーを思わせる言葉の内側へ、ごく切実な恋愛感情が入り込むことによって機械と人間の境界が揺らぐ。
“エレクトロ・ワールド”では、風景も地面も太陽も、世界そのものも消えていく。近未来的なサウンドでありながら、中心にあるのは圧倒的な孤独と喪失感だ。世間にまだ受け入れられず、いつ地元へ帰されるかわからなかった3人が、虚構の世界の終末を歌っていた。その事実は、結果を知る現在から聴いても胸に迫る。
なお、全曲の作曲・編曲・プロデュースは中田ヤスタカだが、作詞は中田だけではない。“リニアモーターガール”“引力”“モノクロームエフェクト”“ビタミンドロップ”“スウィートドーナッツ”“コンピュータードライビング”などは木の子によるものだ。具体的で少し奇妙な少女の言葉と、中田が書くシステム、記憶、喪失のイメージが同居していることも、この時期ならではの魅力だろう。
中盤のインディーズ期の曲では、のちの作品ほどボーカルが均質化されておらず、まだ幼さを残した3人の声と懸命さが聞こえてくる。それを中田のプロダクションが一枚の世界へまとめ上げる。そしてアルバムは、グループの名を冠した“Perfume”を経て、のちにライブで3人と観客を結ぶ大切な曲となる“wonder2”へたどり着く。システムの異常と世界の崩壊を歌ったアルバムが、最後には人と人のつながりへ帰ってくるのである。