TUBEの3rdアルバム『The Season In The Sun』がリリースされたのは1986年6月1日。それから40年が経った。シングル“シーズン・イン・ザ・サン”の大ヒットにより、本作もオリコン週間アルバムランキングで3位まで上昇。前作で商業的に落ち込んでいたバンドが起死回生した重要作だ。今回は、そんな本作について著書「J-POPの音楽的冒険 レアグルーヴ感覚で楽しむ日本のメジャーポップス」でも知られる音楽家TOMCに綴ってもらった。 *Mikiki編集部
〈夏〉のイメージ確立直前のドラマが詰まったオリジナルアルバム
〈オリジナルアルバム〉というフォーマットが好きだ。
特に、後世に残るシングルヒットを収録したオリジナルアルバムには、そのアーティスト自身の熱意はもちろんのこと、高まったリスナーの期待への回答、時代へのリアクション、時には制作スタッフやレコード会社の思惑までもがはっきりと刻まれている。多くの人間が制作や流通に携わり、無数の人々の生活の中へ届いていくポップミュージックは、ひとつの録音芸術作品/商業製品の枠を超えて、その時代の空気を封じ込めたタイムカプセルでもあるだろう。
1986年6月1日にリリースされたTUBEの『The Season In The Sun』もまた、そうした視点で捉えると非常に興味深い作品である。
現在のTUBEといえば、夏という季節そのものを象徴する国民的バンドとして知られている。しかし本作発表以前、彼らのアイデンティティはまだ完全には確立されていなかった。サーフィン用語に由来するバンド名を冠し、揃いの青白ストライプ衣装の出立ちで前年6月に放ったデビューシングル“ベストセラー・サマー”はオリコン週間13位のスマッシュヒット。しかし、10月のシングル“センチメンタルに首ったけ”は同64位と成果を残せなかったことで、早くも解散手前まで追い込まれていたのだ。一方で、メンバー自身は2ndアルバム『OFF SHORE DREAMIN’』の内容に確かな手応えと成長を感じており、このまま終わるわけにはいかないという強い思いを抱えていた。
ファンの方にはご存知の通り、1990年代以降のTUBEのテイストを決定づけるギター春畑道哉の作曲ナンバーは、この時期には一切発表されていない。本作は彼の才能が周囲に認められる以前の作品であり、後にビーインググループ総裁として名を上げる長戸大幸が4曲の作曲を手掛けたのをはじめ、ほとんどがバンド外からの提供曲となっている。
R&Bに根差した前田亘輝の歌が牽引する〈日本のジャーニー〉的ハードロック
そのなかで唯一、メンバーの作曲が聴けるのが前田亘輝が手がけた1曲目“Weekend -NATU- 通信”である。前田の稀代のパワフルなボーカルと、バンドがデビュー以前より抱いていたロック志向が強く表れている本曲は、爽やかなギターのトーンやコード展開も相まって、90年代以降の黄金時代の萌芽もはっきりと見られる仕上がりだ。
TUBEのメンバーが元来ハードロックを演奏していたことは今でこそ知られているが、ボーカル前田亘輝の音楽的ルーツにはR&Bも色濃いことはもっと知られるべきだろう。翌1987年に発表されたソロアルバム『LOOSE』では、彼の熱い歌唱スタイルを彷彿させるオーティス・レディングや、令和の今なお謎多き伝説のブルースシンガーであるロバート・ジョンソンのカバーにも(こちらは恐らくブルース・ブラザーズ版を下敷きに)取り組んでいる。前田の表現を語る上で〈ソウルミュージックへの憧憬〉という視点は決して欠かせない要素だ。
なお、私はかねてより“夏を待ちきれなくて”をはじめとする90s TUBEサウンドを〈日本のジャーニー〉的な視点で愛聴しているのだが、前田のこうしたソウル嗜好は、かつてジャーニーのメインボーカリストであったスティーヴ・ペリーが、稀代のソウルシンガーであるサム・クックから大きな影響を受けていたこととも重なる。R&B由来の熱量ある歌唱とハードロックを清涼感のあるサウンドデザインで包み込む――この方向性は、後にTUBEが大きく飛躍していった90年代前半の音楽性にもそのまま通じるものであり、“Weekend -NATU- 通信”はその始祖のひとつと言うこともできるだろう。
NewJeansハニもカバーした象徴的名曲“シーズン・イン・ザ・サン”
とはいえ勿論、このアルバムでのシンセサイザー/キーボードの活用はまだまだ少ないのだが、鍵盤楽器を効果的に取り入れ、メロウネスと疾走感を両立したナンバーは本作にも存在する。それが、本作の核であり、TUBE史全体をも象徴するナンバーのひとつ、“シーズン・イン・ザ・サン”だ。
作曲を手掛けたのは、当時洋楽志向のリスナーも満足させるロックサウンドを展開していた、後に稀代のソングライターとして名を馳せることになる織田哲郎。前述の通り、背水の陣で臨んでいたメンバーが幾度も書き直しを要求した末に完成したと言われる本曲は、TUBEのキャリアを救うのみならず、織田のヒットメイカーとしての第一歩ともなった。
サビの手前で前田の圧倒的歌唱を誇示するように演奏がピタッとブレイクし、16ビートの軽快かつセンチメンタルなメロディへと雪崩れ込む――そのダイナミックさと無駄のない洗練された演奏の組合せは、さながら昨今シティポップ文脈で一大ムーブメントを巻き起こした松原みき“真夜中のドア〜stay with me”にも通じるものがある。
“シーズン・イン・ザ・サン”は近年NewJeansハニのカバーで話題を集めたものの、TUBEという看板の圧倒的現役感・メジャー感も相まって、松原ほどの再評価の波は今のところ訪れていない。ただ、もし仮に彼らが90年代以降のセールス黄金期を迎えていなかったとしたら、本曲がよりヒップなものとして新たな角度から脚光を浴びた可能性は高いだろう(良かれ悪しかれ、〈リバイバル〉にはこうした側面は必ず付きまとう)。
なお、“シーズン・イン・ザ・サン”は、いまだに当時の12インチシングルでしか聴くことができないリミックス版(Special Remixed Seaside Version)が存在する。原曲にないアコースティックギターのフレーズの挿入、パーカッションの強調に加え、サビではなんと〈Stop〉のフレーズで楽曲が数秒ストップするギミックも盛り込まれた、私自身何度となくDJでプレイしたJ-POP史上最高峰のバレアリックダンスチューンだ。40年の時を越え、初のCD化・配信解禁を願ってやまない。
のちのビーイングサウンドの方程式やラテンテイストも含む重要作
ここまでの通り、本作は〈夏のTUBE〉というイメージを確立するきっかけとなり、現在まで続くスタイルの輪郭が初めて見え始めた作品と言える。最後に、その他の収録曲についても触れておきたい。
本作以前のアルバム収録曲で顕著だったサックスの使用は、タイトルチューンをはじめ本作でも随所で垣間見える。その代表格が、ハードな演奏が際立つ高速チューン“夏の住所はON THE BEACH”と、オールディーズ的な雰囲気が漂う“あの娘に急上昇”だ。前者はその疾走感も相まってブルース・スプリングスティーン以降のアリーナロック〜のちのビーイングサウンドの方程式を思わせ、後者は当時国内外で長らく続いていた50年代リバイバルや、メジャーシーンのボーイズバンドの手本のひとつだったチェッカーズを思わせる。こうした背景をつい探りたくなる2曲が、いずれも長戸大幸の作曲というのも面白いところだ。
また、グルーヴィなロックチューンである“Right On!”も要注目だ。過去のシングルに見られたファンカラティーナ的な要素を引き継ぐこの曲は、90年代に“あー夏休み”“さよならイエスタデイ”“ガラスのメモリーズ”“だって夏じゃない”といった大ヒットシングル群で隆盛を迎える、TUBEならではのラテン歌謡的な流れを断絶させなかったという点で隠れた重要曲に思える。他にも、タイトル曲のテイストを引き継ぐ軽快で爽やかな“Have a nice trip”は次年リリースの“SUMMER DREAM”も彷彿させる仕上がりで、まさに〈“シーズン・イン・ザ・サン”を擁するオリジナルアルバム〉である本作ならではのナンバーだろう。
『The Season In The Sun』は、完成された〈夏の王者〉としてのTUBEを提示した作品ではない。ルーツに根差したロック/ソウルの衝動、音楽産業の瀬戸際まで追い込まれた者たちの執念、後に時代を築く面々の才能の萌芽――それらが渾然一体となりリスナーに迫る、過渡期ならではの一瞬の煌めきが閉じ込められた魅力的なオリジナルアルバムである。
