(左から)春香、清水、島津、川本

成城大学のアメリカ民謡研究会で出会ったメンバー、川本(ギター/ボーカル)と島津(ドラムス)と前任ベーシストでスタートしたバンド、くぎ式。6年以上の歳月を経て、今年4月ついに1stアルバム『兎に角』をリリース。ここで聴けるのは90年代USオルタナ直系のギターサウンドでありつつ、微妙にひねくれたポップ。乗っかる歌詞は我々が普段見ている日常と変わらない。現在は川本と島津の先輩であるギタリスト清水、そしてメンバー募集で参加したベースの春香の4ピース体制となりすでに次作も制作中。バンドの性格を表す川本のソングライティングやバラバラな4人のルーツ、そして全員が社会人であることの利点などを訊きながら〈ヘンテコポップ〉を自称するバンドくぎ式を解明していこうと思う。

くぎ式 『兎に角』 くぎ式(2026)

 

中島らも、カート・コバーン、向井秀徳に影響された日本語オルタナティブロック

――くぎ式は川本さんと島津さんと前のベースの方で始めたバンドだそうですが、その頃から今の音楽性に感じられるUSオルタナ的なものの影響が大きかったんですか?

川本「そうだと思います。一貫してるのは英語を使わない、全部日本語で歌うことです。英語だとしてももう日本語になっちゃってるような〈カレンダー〉とか〈ラジオ〉とかは使いますけど、不自然な英語は歌詞に絶対に入れてないですね」

――それは日本のバンドの影響から?

川本「影響はありますね。eastern youthが好きだったので。あのバンドも最初は英語を使ってたけど、途中で〈日本人なのにみっともない〉と思ったらしく、それからずっと日本語になりましたよね」

――リアル90年代ということで言うと川本さんの影響として大きいものって何なんですか?

川本「作家だったら中島らもさん。洋楽だったらやっぱりカート・コバーンですね。邦楽だったらナンバーガール、向井秀徳さんですね」

――カート・コバーンからの影響はどういうところが?

川本「パワーコードばっかり使ってるんですけど曲が暗いっていうか変っていうか、普通にやったら多分フー・ファイターズみたいに明るい感じになるんですよ。でもカート・コバーンの曲って気持ち悪さがある。そこが好きですね」

――4人全員で共通点として〈これが好き〉みたいな音楽はあるんですか?

川本「島津と春香はメロコアとかだよね。で、清水さんはラモーンズとかストロークスとかのストレートなロックンロールですよね」

清水「うん」

川本「僕はバキバキなオルタナティブが好きですけど、いろいろ聴きます」

――じゃあ、あんまり重なる部分がない中でバンドをやってる感じですか?

島津「そうですね。ガチッと4人全員の好みが合うバンドは多分ないですね」

川本「単純に俺がやってる音楽が本当にオルタナティブなのかって言ったら〈?〉なところもあるし(笑)。俺がやってる音楽をみんなが気に入ってやってくれてるから、別にジャンルでいちいち分ける必要もないなって思います」

 

川本の曲がヘンテコだけどポップな理由

――あとキャッチフレーズとして〈ヘンテコポップ〉とつけられてますけど、ストレートなポップじゃないところがくぎ式の良さだというのが皆さんの認識なんですか?

川本「ずっと一緒の演奏だと僕が途中で飽きちゃうんですよ。だからいきなり止まったりキメを入れたり、いきなり楽器が一人になったりとかは自分が飽きないようにカマしてる感じですね」

――川本さんのポップさの源泉ってどこにあるんですかね。

川本「そもそも僕が子供の時にお母さんが唱歌とか童謡とかアニメの主題歌のカセットをいっぱい買ってきてくれて、それを聴いてたんです。ある程度大きくなったら生協でビートルズとかカーペンターズとかプレスリーとかのオールディーズ関係のボックスを買ってきてくれてそれを聴いてて、そこが源泉かもしれません」

――そういうストレートなポップスで他の皆さんも好きなものってあるんですか?

清水「僕はビートルズは大好きで、ルーツはビートルズの人ですね。

バンドの曲の話で言うと川本のボーカリストとしての資質もあると思いますよ。ちゃんとメロディを歌える人というか。音を外すわけじゃなくてもメロディがメロディアスに聞こえないタイプのボーカルの人もいるじゃないですか? デヴィッド・ボウイとかね。そういうタイプじゃなくてしっかりメロディを追える人だから、それがポップに聞こえるんじゃないかなって思います」

島津「ポップということで言うと、自分たちのやりたい音楽をやりたいようにやる一方で、やっぱり誰にも嫌われたいわけじゃないというか、ある程度大衆性は必要だと思うんですよね。そのためには攻撃性とか排他性とかじゃなくて、ポップなものを備えている必要がある。川本が作るメロディはポップだと思いますし、少なくとも自分は誰かに聴いて〈いい〉と思ってもらいたい気持ちがありますね」

 

『兎に角』制作後に4人のメンバーが集まるまでのストーリー

――今回アルバム『兎に角』をレコーディングするに至った経緯はどんなものだったんですか?

川本「音源自体は島津と僕と前のベースが演奏してるんです。それを録り溜めてアルバムにできる曲数が溜まって、マスタリングも終わったので、出しますかと。そのタイミングで考えの違いがあってベースが交代しました」

――じゃあレコーディングした時期自体も色々なんですね。

川本「そうです。全然違います」

――全然そういうふうに聞こえなかったです。

川本「本当ですか? それは多分マスタリングしてくれた小泉由香さんの腕だと思います」

――バンドを続けたいという意思は川本さんと島津さんの間では共通していたんですか?

島津「それについて2人で話し合った記憶はそんなにないんですけど、でもバンドをやることが自然というかライフワークの一つっていうのが根本にあるんですね。それの延長でレコーディングもそうですし、人前に立って演奏したいって思うんです」

川本「僕もそうですよ(笑)。曲を考えついちゃうから発作のように吐き出しているんです」

――清水さんはなぜ加入されたんですか?

清水「ぶっちゃけ誘われたからですよ(笑)。もちろん加入するバンドはなんでもいいわけじゃなくて、川本の曲自体は昔から知り合いとして聴いてはいたのでアリだなと。自分はあんまりオルタナって通ってなくて、どっちかというとちょっとアレルギーがあるぐらいなんですけど、川本の曲はいいなと思ってましたし、オルタナと思っては聴いてなくて〈昔から知ってる川本の曲〉っていう感じなんです」

――言語化するとしたらどういう特徴があるんですか?

清水「ひねくれてるけど最終的にはポップに着地してる。それは意図的なものなのか業みたいなものかよくわからないんですけど、そこがあるから自分はやりやすいんだと思います。鬱じゃない感じとか」

――清水さんの楽曲評に対して、川本さんの自覚としてはどうですか?

川本「伝わらないと意味がないと思ってるんです。ただポップにやろうとしても自分の変な感じというか変態性みたいなのは滲み出ちゃうんですけど、なるべくエゴイスティックになりきらず分かりやすいふうにしようとは思ってます」

――春香さんは今年加入されたんですよね。どんな経緯だったんですか?

春香「バンドメンバー募集サイトがあって、ベーシストとしてプロフィールを登録して放置してたんですね。そこに川本さんから音源が送られてきて、いただいた曲が自分の中でどんぴしゃで。楽しそうだなと思ったので、すぐ〈ぜひスタジオ入りましょう〉とトントン拍子でお会いしてスタジオに入りました。それで、やっぱり楽しかったので〈お世話になります〉という流れですね」

――春香さんの音楽への入りはメロコアだったそうですが。

春香「始めはHi-STANDARDとかのメロコアが入りで、そこからいろんな音楽を聴くようにはなったんですけど、好き嫌いは特になくて、メタルが嫌だとかJ-POPが嫌だとかそういうのはないし、クラシックも聴きます。くぎ式に加入したのは単純に弾いてみたい、一緒にやりたいなって気持ちが強かったからですね」

――くぎ式としてこの4人になっていることについて川本さんはどういう感慨がありますか?

川本「ラッキーだなというか。だいたいメンバー募集ってうまくいかない、やばいやつしか来ないって考えると、うまく引き当てましたね(笑)」

 

オシャレでもダサくもない、くぎ式らしい中毒性のある3曲

――作詞作曲の川本さん以外のお3方に、〈これはくぎ式の特徴を表してるな〉という曲を挙げていただけますか?

島津「“一攫千金”はすごくらしさを感じるというか、川本が作る曲らしいですね。曲の雰囲気にダークなもの、排他的なものをちょっと感じるし、全体的なトーンにそう感じますね」

清水「“兎に角”ですかね。メジャー7thをキープしたままルートを変えてくのがメインのコード進行で、普通メジャー7thを使うとオシャレな感じになるんですけど、この曲はオシャレになってないんですよ」

川本「ハハハ」

清水「サビはメジャー7thを押さえてて、コード進行の大まかな流れとしては普通にE〜A〜Bのどメジャーなスリーコードを回してるんですね。で、ああいう明るいコード進行であのテンポで演奏すると普通ダサくなるんですけど、ダサくなってないんですよ。オシャレにもなってないしダサくもなってない。ああいう曲作りってなかなか他の人はできないかなと思うので、くぎ式らしいかと言われればわからないですけど、川本らしいなというか、うまく作ってるなって感じますね」

――シューゲイズともまた違う面白さがありますよね。

清水「そうなんですよ。シューゲイズのような浮遊感を狙ってる感じでもなく、さっき言った〈ポップに着地する〉っていうのはそういうところなのかなって気がします。〈変なことをやってるぜ〉っていうことを全面に押し出してくる感じじゃなくて、ガワは綺麗に鳴ってるように聞こえるんです」

――春香さんはいかがですか?

春香「自分は川本さんとの付き合いは短いんですけど、歌詞に意味を持たせないということで言うと、“各駅停車”はまさにその代表格じゃないかなって思います。駅のホームで電車を待ってて各駅停車でゆっくり帰るっていうだけのことをずっと歌ってますよね(笑)? そのなんでもないことを歌ってる歌詞がなんとなく残っちゃうっていう、一種の中毒性があるなってずっと思っているんです。それを強く思うのは“各駅停車”かなって」

川本「ただ単純に酔っ払って帰ってるっていうだけの曲ですけどね(笑)。〈ほろ酔い気分で〉っていきなり歌ってますからね」

 

お笑い界の錦鯉、アイドル界の純烈、そしてバンド界のくぎ式

――くぎ式は社会人バンドですが、社会人だからこそのやりやすさとかやりたいことができているところは?

川本「要は安定的に収入があるわけですよね。だから売れようが売れまいが関係なく好きな曲、好きな活動ができるっていうのがやっぱり一番大きいです。だって最近のバンドなんてサブスクが広がったせいでCDが売れなくなったから、ライブ代も高くなっちゃって、グッズを売りまくることで採算合わせようとしてますよね。結局何屋さんなんですか? アパレルですか?と。そうなるぐらいなら普通に働いてバンドをやった方が正解なんじゃないの?と思いますね。

そうすると〈曲のクオリティが下がる〉と言う人たちがいるかもしれないですけど、〈ミュージシャンなんて、練習やってレコーディングとライブが終わったら、その後が暇すぎる。暇すぎるから僕はスタジオ経営を始めたよ〉と、ミックスとディレクションをやってくれた原さん(原朋信、シュガー・フィールズ)は言ってました」

島津「バンドを続けるってことが自分の中では一番大きな目標なんですね。本当に叩けなくなるまでドラムを叩きたいし、音楽が好きだしバンドが好きなので。で、どうやって長く続けていくのかってことを考えたら、別に社会人になっても全然続けていけるじゃないかと。練習もライブもフリーターの時と違って密にできるわけではないけども、自分たちの好きなようにできる。何よりも長く続けられる可能性があるというところが一番大きいですね」

清水「自分個人に関しては、社会人かどうかっていうよりは年齢を重ねたことで〈出すべきエゴを出すこととバンドのための選択は違う〉という気持ちでバンドをやれてるから楽しいですね。あとバンドに関しては社会人がやれる人間だからバンドもちゃんとやれるっていうのはあると思います」

春香「自分も10代後半とか20代でバンドをやってた時は、熱量とか目指してるところの違いで周りと言い争いになったことがあったんですよね。それにさっき川本さんが言ってたお金のことに関しても、学生だとアルバイトをしながらスタジオに入って、ライブハウスでライブするにもノルマがあって、〈チケットをさばけなかったら自分たちで買い取りね〉と言われ、どんどんお金がなくなって、音楽をやりながらずっと辛かったんですよね。

でも今は社会人だからある程度収入もあるし、気持ちの面でも当時我慢できなかったことも譲歩できるようになった。若い頃と同じことをしてるんですけど、価値観がちょっと変わって人との付き合い方が上手になったんじゃないかなって思いますね」

――勢いだけだった頃を通り過ぎた上でやる良さというか。そういう意味でも、くぎ式の今後の活動が楽しみですね。

川本「まあ低空飛行だけどずっと墜落しない、みたいな感じでやっていこうと思ってますけどね(笑)」

――頼もしいです。ユニークな立ち位置で続けていただければ。

川本「お笑い界で言ったら錦鯉、アイドル界で言ったら純烈、バンド界隈で言ったらくぎ式、みたいなね(笑)」

――今回収録された楽曲以外にももっと曲があるんですよね?

川本「2ndアルバム用に清水さん含めもう6曲すでに録ってるんですよ。前のベースがやめたので春香の演奏に差し替えて。今年中にできればもう3曲作って、来年には2枚目を出したいなと思ってます」

 


RELEASE INFORMATION

くぎ式 『兎に角』 くぎ式(2026)

リリース日:2026年4月3日(金)

TRACKLIST
1. 二度寝
2. 歯軋り
3. 各駅停車
4. 兎に角
5. 有耶無耶
6. 濁声
7. 一攫千金
8. 睡魔
9. 沈黙

 


PROFILE: くぎ式

2019年9月結成、逗子発のローファイ・オルタナティブロックバンド〈くぎ式〉。90年代USオルタナ/ポストパンクに影響を受けたギターサウンドに、日本語詞による独特なポップネスを融合。ノイズとメロディ、静寂と爆発を行き来する〈ヘンテコポップ〉を鳴らす4人組。女性ベースを含む編成も特徴。楽曲では〈意味〉や〈メッセージ性〉を過度に重視せず、日常の些細な出来事や、どうでもいいような感情をそのまま切り取るスタンスを貫いている。〈子供達が何気なく歌う鼻歌のような、純粋な歌〉を理想に掲げ、洋楽的な感覚をベースにした自由な表現を追求している。

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