それが結局のところ何だったのか、よくわからないままであったとしても、“Harlem Shake”の動画を目にしたことがあるという人は多いのではないだろうか。お下品な一瞬の興味を狙い撃ちするかのように、楽曲中の一部を用いて〈Do The Harlem Shake〉するおもしろ動画が世界中で拡散したことにより——日本ではアップアップガールズ(仮)の一肌脱いだチャレンジも注目された——バウアーという無名のアーティストの発表した“Harlem Shake”(2012年)はオーヴァーグラウンドへも話題を広げるどころか、チャート圏外から全米1位に初登場するという快挙を成し遂げ、結果的には2013年を代表するバイラル・ヒットとなったのだ。とはいえ、バウアーの存在が単なるマーケティング用例で記憶されるものでないのは言わずもがな、である。
バウアーことハリー・ロドリゲスはペンシルヴァニア出身、89年生まれの現在25歳だ。2012年にはUKのラッキーミーと契約して最初のEP“Dum Dum”をリリースしているが、件の“Harlem Shake”はそれより数か月前、ディプロ主宰のマッド・ディセントから出されていたものだった。それらの楽曲に共通するのは、サウスのドラッギーなヒップホップ(トラップ・ホップ)をデフォルメしたアメリカン・ダブステップの進化型にして、SoundCloudのタグとして様式を確立された〈トラップ〉の作法。彼の躍進はこの言葉の広がりとも無関係ではないが、同年にはプロディジーのリミックスを依頼されるなど、現象化する前から若き注目株としてラスティやモードセレクターに支持されていたことは覚えておきたい。
その後はジェイZをフィーチャーした“Higher”をジャスト・ブレイズと連名リリースし、G-DRAGONのプロデュースをディプロと共同で手掛けるなど、現象の副産物を楽しんでいたバウアーだが、2014年に入るとラッキーミーでのリリースも改めて活発化。ヒップホップっぽいオリエンタル・ループの“Clang”に続き、初めてのまとまった楽曲集となる『ß EP』を発表している。で、2015年1月に幕張メッセで開催されるEDM系フェス〈electrox〉への出演にも合わせて、配信オンリーだった同作のCDリリースがこのたびタワレコ独占で実現したのだ。
アルーナジョージとレイ・シュリマー(マイク・ウィル・メイド・イットの秘蔵っ子デュオで、新年早々にアルバムをリリース予定!)をフィーチャーしたアリーヤ作法の“One Touch”を筆頭に収録曲は充実。ハドソン・モホークにも通じる“Floreana”、トゥワーク上等なトラップ・バウンス“Boog”、より不穏なダークステップ“Swoopin”、そして“One Touch”のファナティックなVIPといったトラックに加え、先述の“Clang”などもボーナス収録。いずれも強烈にヒプノティックなクラップを基盤にしたパーカッシヴな仕上がりで、これはビッグなフロアでも強力な武器となるだろう。注目アーティストを目撃する前にぜひ入手しておきたい一作だ。
▼バウアーの仕事を含む作品の一部
左上から、プロディジーの97年作の豪華盤『The Fat Of The Land: Expanded Edition』(XL)、2013年のコンピ『All Trap Music』『All Trap Music Vol. 2』(共にUKF/AEI)、G-DRAGONの2013年作『Coup D'Etat』(YG)、2013年のコンピ『The Sound Of Trap』(Ministry Of Sound)、アルーナジョージの2013年作『Body Music』(Island)、レイ・シュリマーの2015年作『SremmLife』(EarDrumma/Interscope)
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