「オルガンの未来へ」に向けて作曲家、「自作」を語る
〜ミューザ川崎のユニークなポジティフオルガン講座~

 ミューザ川崎シンフォニーホールは今年3月7日、日本を代表する作曲家5人によるパイプオルガンのための作品を一堂に集めた演奏会「オルガンの未来へ」を開く。企画者で同ホールのアドバイザーを務める松居直美は自らの豊富な演奏体験を通じ、日本にオルガンの響きを広めてきたパイオニアの1人。「1973年のNHKホール完成以来、パイプオルガンが全国の演奏会場に普及した日本で、キリスト教の伝統とは異なる形での受容」を模索する中で「日本人作曲家への新旧委嘱作品のみを一気に聴かせる」との大胆な試みに至ったという。

 具体的には、池辺晋一郎の《リチェルカータ》(1988年、第1回武蔵野市国際オルガンコンクール組織委員会委嘱作)、西村朗の《オルガンのための前奏曲〈焰の幻影〉》(1996年、同コンクール委嘱作)、細川俊夫の《雲景〜オルガンのための》(2000年、同コンクール委嘱作)、権代敦彦の《シャングリ・ラ》(2008年、横浜みなとみらいホール委嘱作)、薄井史織の《小宇宙》(2014年、ミューザ川崎委嘱作・世界初演)の5作品。演奏はミューザ川崎のオルガニストを務める近藤岳(西村、権代)と那須野が原ハーモニーホールのオルガニストであるジャン=フィリップ・メルカールト(池辺、細川)、ドイツを拠点とする福本茉莉(薄井)が分担する。

【参考動画】松居直美によるパイプオルガン演奏

 

 あまりに壮大な挑戦に危惧したのか、ミューザ川崎ではホール内の市民交流室や隣接する商業施設「ラゾーナ川崎」5階のプラザソルに小型の楽器ポジティフオルガンを持ち込み、5人中3人の作曲家を1人ずつ招き、松居をナビゲーターに立てての3回連続準備シリーズ「作曲家《自作》を語る」も企画した。第1回が池辺(1月27日)、第2回が西村(2月10日)、第3回が薄井と演奏者の福本(3月3日)と豪華な顔ぶれだ。

 初回。池辺と松居の当意即妙な駆け引きはもちろん、最後に飛び入りで加わった近藤の話と演奏にも説得力があり、聴講者との質疑応答まで盛り上がった。

 池辺は得意のダジャレを連発。「風を送って音を出す楽器」として同類のハーモニカや笙の例も引き合いに出しつつ、(1)「どちらか片方の足が地に付いていないと違反になる競歩」と同じく「鍵盤の上にずうっと指を置いていない限り、レガートにならない「尺取り虫楽器」(2)鍵盤に触っていない間は「死んでいる」という「マイナスの美学の楽器」――と、自身がオルガンに対して抱く音のイメージを鮮やかに解説してみせた。中学生時代、池辺が作曲した《独眼竜政宗》のテーマ音楽を聴いて「一時は作曲家を志した」と打ち明けた近藤に対し、客席から「弾いてみてください」と、まさかのリクエスト。ポジティフオルガンが奏でる大河ドラマの調べは、うれしいサプライズだった。

 

松居直美

オルガンを日本に広めたパイオニア。「オルガンの未来へ」の企画者でありミューザ川崎シンフォニーホールのアドバイザーを務める。

 

EVENT INFORMATION

ホールアドバイザー松居直美企画
オルガンの未来へ

2015. 3.7(土)
14:00開演 13:15プレトーク

出演
オルガン:近藤岳、ジャン=フィリップ・メルカールト、福本茉莉

曲目
池辺晋一郎:リチェルカータ(1988年第1回武蔵野市国際オルガンコンクール組織委員会委嘱)
西村朗:オルガンのための前奏曲「焔の幻影」(1996年第3回武蔵野市国際オルガンコンクール組織委員会委嘱)
細川俊夫:雲景~オルガンのための~(2000年第4回武蔵野市国際オルガンコンクール組織委員会委嘱)
権代敦彦:シャングリ・ラ Op.113(2008年横浜みなとみらいホール委嘱)
薄井史織:小宇宙(2014年ミューザ川崎シンフォニーホール委嘱・世界初演)

チケット料金
S席:3,000円 A席:2,000円

ミューザ川崎シンフォニーホール
チケットセンター(10:00~18:00)
Tel 044-520-0200